神域への道67
調査を終えたフォルトゥナと意見交換を行った後、ヒヅキはもう1度同様の方法で動く植物を確保する。今回は前回よりも少しだけ長めに根っこを残した。それにより動いているのが分かりやすくなったところで、早速ヒヅキは検証に入る。
まずは前回と同じ短剣で、別の場所を切断する。切断するのは、塊根の細くなっている下の方から3分の1ほど上の部分。
動いている根っこを確認しながらその部分を切断してみると、今回は何かを切ったような感覚はしなかった。そして、根っこも動きを止めることはなかった。
『やっぱり重要な部分は固定という事かな? という事は、もしかしたら顔の部分がそうなのかもしれないね』
『その可能性は高いかと』
『それに、根っこの動きが変わらないところをみると、植物だけに痛覚みたいなものはなさそうだ。動きが鈍くなるという事もないから、動物のように衰弱するという事もないのかもね。まぁ血とかも出ないし、動いていても結局は植物という事なのだろう』
切断した場所の少し上の部分を切ってみるも、結果は変わらない。最初の長さの半分になっても、植物の動きは止まらなかった。
もう少し上に行くと顔の部分になるので、ヒヅキは少し考えた後、顔よりも上の部分を切ってみることにする。
葉との境付近を切って、葉と塊根部分を分ける。それでも何かを切った感触は無いので、やはり顔の部分に植物を動かしている何かは在るのかもしれない。
もう少し検証してみようと、ヒヅキは顔の部分だけ残すように周囲を切り落としていく。
最初から予想通りだったらそうする予定だったので、顔の部分の近くに生えていた根っこを残していたので、他を切り落としても問題はない。もしかしたらとそれ以外の場所も残していたが、切り落としたらその部分の根っこの動きは止まっていた。
『予想通り、この植物を動かしている何かは顔の部分にあるので確定のようだ。後はそれに個体差があるのかどうかを調べるだけだね』
フォルトゥナにそう伝えながら、ヒヅキは最後の検証を行う。それは、前回ヒヅキが切った何かが一体何なのかの確認である。
(これは切るよりも、削っていけばいいと思うけれど……)
ヒヅキの予想では、実体の無い心臓のような何かが植物の中に存在しているのではないかと思っているので、植物の表面を削っていけば、それが消滅する前にその端ぐらいは確認出来るのではないかと考えていた。仮に失敗しても、その何かのおおよその大きさが判明するのでそれでも問題はない。
そんな考えの下、植物の表面を削る作業が始まった。
それは非常に地味な作業であった。厚く削る訳にはいかないが、かといってそう簡単な作業ではない。
(せめて表面に凹凸が無ければいいのだが)
凸凹としている表面に苦戦しながらも、ヒヅキは少しずつ塊根を削っていく。それは何だか彫り師にでもなった気分だった。
幸いなのは、塊根がそれほど厚くない事だろう。塊根の上部は下部よりも太いとはいえ、現在削っている部分の厚みは5センチメートルあるかどうかといったところ。改めて確認すると、本当にひょろっとしているものである。
しかし、だからこそ細心の注意が必要とも言える。それだけ細い塊根の中に存在しているのだから、当然その何かはもっと小さいはずだ。
数度塊根を削ったところでコツを掴んだのか、ヒヅキは向こう側が透けて見えそうなほどの薄さで削っていく。それでいながら結構な速度なので、みるみるうちに塊根は削られていった。
そうして1センチメートルほど削ったところで、ヒヅキは削っていた塊根のほんの僅かな部分がほのかに明るい色になっているような気がして手を止める。
『これは……?』
見間違いかとも思ったので、念の為にフォルトゥナにも確認を取る。そうすると、確かに塊根の一部がほのかに明るい色合いになっているようだった。
どういう事だろうかとヒヅキが首を捻ると、フォルトゥナが自分なりの考えを口にする。
『おそらくですが、その明るい部分の向こう側が光っているのではないかと』
『光っている?』
『はい。あくまで推測でしかありませんが、そこが動力部分なのではないかと』
フォルトゥナは元居た世界からこちら側の世界に入る前に居た花畑を思い出しながら、ヒヅキにそう告げる。あの花は動きこそしなかったが、蕾の中の光る何かが動力源だったのは間違いないのだろう。もしかしたら、この植物はその時の亜種なのかもしれないと、フォルトゥナはふと思った。
その言葉に頷いたヒヅキは、その明るくなっている場所を避けて、その周辺を削ってみる事にした。もしかしたら形や大きさぐらいは判明するかもしれないと思って。




