神域への道65
(根っこに動物のような筋肉みたいな部分があるのだろうか? それを動かす判断は何処で行っているのだろうか? 仮に思考しているとしても、何度強風で飛ばされても同じように襲ってくる辺り、あまり賢そうには思えないが)
少し考えたヒヅキは、植物を捕らえてみようかと考える。しかし、いきなり捕獲は危険すぎるだろうかとも思え、どうしようかと逡巡する。
(まぁ、同じ畝の植物は同種のようだから、ここで無理に捕らえなくても、まずはどうすれば動かなくなるのかを確かめてみてもいいかもしれないな)
そう結論を出したヒヅキは、その事をフォルトゥナに相談してみる事にした。
その結果、フォルトゥナが幾種類か属性魔法を弱めに浴びせて反応を確かめる事になった。風は確かめたので、水や火などの基本的な属性から、氷や雷などの上の属性も試していく。植わっている植物の数は多いとはいえ、試す順番は考えておかなければならないだろう。
そうして始まった実験だが、思いの外順調に行き過ぎた。というよりも、植物が弱すぎてどの属性でも簡単に倒せてしまうのだ。動きを封じるなどあまりにも簡単すぎて少々困惑したほど。
『とりあえず、確実に動きを止めるならば氷漬けにするのが1番か。何故か電撃がよく効いて、弱い電撃でも直ぐに動かなくなるが、それは一時的なモノのようだからな。まぁそれでも、結構長い時間痺れて動かなくなるようだから、実験するには十分だけれども』
『そうですね。それに、植物なのに土で根っこを掴んだだけでも動きを封じられるようですし』
『根っこ以外は攻撃手段がないのか、そこを封じれば脅威ではなくなるからね』
畝に植わっている同種の植物を半分以上実験に使ったところで、そろそろ動いたままの植物を調べてみる事にする。動かなくなった植物を解体してみても、ただの植物でしかなかった。
早速手近な植物を掘り返す。フォルトゥナも慣れたもので、風だけではなく土の魔法も使って直ぐに掘り返した。
根をしならせて動き始めた植物が近づいてきたところで、フォルトゥナは土を伸ばして器用に根っこを捕らえて封じていく。
全ての根っこを捕まえたところで、ヒヅキはまず周囲を観察してみる。見た目はやはりただの人参であった。
次に、ピクピクと動いている根っこを根元付近で切り落としてみる。それで切られた根っこは動きを止めたので、動かなくなった根っこの拘束を解いてもらう。
『………………問題なさそうだね』
しばらく観察してみても動き出さなかったので、ヒヅキは切り離した根っこを手にしてみた。
『やっぱりただの根っこだよな』
他の根っこも切ってみた後に直ぐに切断面を確認してみたが、何度確認してみても、筋肉が詰まっている訳でもないただの植物の根であった。
そうして幾本かの根っこを観察した後、ヒヅキは本体に付いている顔っぽい模様を観察してみる。しかし、どれだけ観察してみても、線を引いただけのようなその顔が動くことはない。
ヒヅキは切断した根っこを使って、その顔の部分にペシペシさわさわと触れてみるも、無反応だった。触れても本体が動く様子はない。
『うーん……やっぱりこれは単なる模様なのかな?』
全ての動いた植物に同じ模様が付いていたが、調べてみてもただの模様だった。
動かなくなった植物のその部分を削ってみた時も、結構深くまで染まっている染みみたいなモノでしかなかったので、予想通りといえばその通りだが。
そのまま全ての根っこを根元から切り取った後、ヒヅキは支えを失って転がった植物の本体を手にする。
『これは生きているのかどうか』
根っこしか動かないので、そこを切り落としてしまうと植物は動かなくなってしまう。なので、まだ動こうとしているのかどうか判断に困る。
『お! ここに根っこの根元が少し残っていた。それが僅かに動いている気がするから、このままでも動こうとはしているのか』
本体部分を観察していたヒヅキは、凹凸の隙間に僅かに残っていた動く根っこを発見して、そう判断する。という事は、表現として適切かどうかは分からないが、この植物はまだ生きているという事になるのだろう。




