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神域への道63

 植物に近づいてみても何か体調がおかしくなるという事もなく、しゃがんで土の中から露出した部分を観察してみる。

(遠目で見た通りに暗い赤色をしているが……見た目は人参だな)

 しばらく観察した後、土の上に出ている茎の部分を掴んで引き抜いてみる。大分露出していたので、簡単に引き抜く事が出来た。

(……引き抜いても何も無し。これはただの植物だったのかな?)

 まだ最初なので油断はしないが、少なくとも目の前の植物は変わり種ではなかったようだ。

(うーん。見た目はかなり貧相だが、まんま人参だな)

 引き抜いた植物はひょろっとしているが長く、暗い赤色をしている。表面は凸凹とした細かな段が出来ており、そこに土が乗っかっていた。

 それは何かの薬草のようにも見えるが、ただの栄養不足の野菜にも見える。だが、わざわざ畝を造ってまで植えていたので、栄養不足とは考えにくい。ここが貧乏な村みたいな場所なら話は別かもしれないが。

 それからヒヅキ達は、同じ畝に生えている植物を引き抜いていく。最初の方は慎重に抜いていたが、どうやら同じ畝には同じ種類の植物が植わっているだけのようで、そこまで警戒する必要はなかった。

 他の畝の植物を抜く際は、同じ見た目の葉っぱでも最初の何本かは慎重に抜いていく。

 そうして幾つかの畝の収穫が終わったが、植わっていたのはどれも普通の植物ばかりであった。中には知識に無い種類もあったが、襲ってくるような事も、ひとりでに動き出すような事も無かったので、食さなければ一応は安全だろう。

『ここはただの菜園なのだろうか?』

 家庭菜園というには広い場所だが、それでも本格的な畑というには規模が足りていない気もする。

 そんな場所に植わっているのは、薬草のような野菜のような植物ばかり。ヒヅキだけではなくフォルトゥナの知識にも無い植物もあるので、なんとも評価し難かった。それでも、知っている植物には薬草が多かった。

『その可能性もありますが……向こう側の植物は動いているように見受けられます』

 ヒヅキの言葉に頷いたフォルトゥナだが、直ぐに遠くの畝の方を指差しながらそう告げる。

 フォルトゥナのその言葉に、抜いたばかりの植物を観察していたヒヅキは立ち上がって、視線をフォルトゥナが指差す先に向けてみると、そこには無風の室内でさわさわと僅かに葉が揺れている植物があった。

 最初は何か生き物でもその場所に居るのかと思ったが、部屋の中にはヒヅキとフォルトゥナ以外に動くモノは居なかったのを思い出したヒヅキは、葉っぱが動いている植物は変わり種の植物なのだろうと推測する。

 だが、だからといって何をするという事もない。襲ってくるならばまだしも、葉っぱを動かしているだけなら害はないだろう。何かの成分を周囲にまき散らしているのだとしても、ヒヅキは風の結界で周囲を覆っているのでそれに効果はない。

 かといって、何かを誘き寄せているにしては場所が悪かった。ここが森の中なら話は変わるのだろうが。

 もっとも、だからといって放置も出来ないので、ヒヅキ達は1度畑から出た後、葉っぱが動いている植物が植わっている列の畝の前に移動する。

『何か動物は……居ないね。風も吹いていないし、やはり植物が自ら動いているのだろうね』

『はい。そうだと存じます』

 周囲の様子を確かめたヒヅキは、フォルトゥナと情報を共有する。

『動いているのは奥の方の植物だけか』

 同じ列に植わっていても、手前の植物は微動だにしていない。葉っぱの形を見るに、おそらく同種の植物だとは思うのだが。

『途中から植える種類を変えたのか、何らかの理由で動いている部分だけ突然変異でもしたのか、それとも手前の植物がジッとしているだけなのか』

 考えたヒヅキだが、とりあえず離れた場所から風の魔法を使って、手前の植物から調べてみる事にした。

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