仕事11
干した果物ではなく、出された新鮮で瑞々しい果物を口にしたヒヅキは、周囲の様子を警戒と共に密かに見渡す。
少人数の兵士が周囲を囲むように配置されてはいるが、これについては別段おかしい事ではないだろう。むしろまだ少ないぐらいだ。
人足の人たちやシラユリとサファイアも寛いでいる。中には床に座って歓談している者も居た。
カトーという名前のもう一人の護衛の男性は、シロッカスと人足頭と一緒に塔のような建物の中へと向かったので、ここには居ない。
警戒している兵達からは緊張した様子は見受けられず、ヒヅキは内心で首を傾げた。
てっきりスキアとの決戦前に、兵士の士気を下げないように上等な食事を出しているついでに、自分たちにも出されたのだと思ったからだ。
しかし、兵士の様子や砦内に漂う雰囲気は、適度な緊張感はあるものの、それぐらいしかない。慌ただしさも、息が詰まるような張りつめた空気さえない。
もしかしたら、ただ単に食事で武器輸送の労を労っただけなのかもしれない。
そう思い直したヒヅキは、頭を振って考えを変えようとする。しかし、どうしても肌にまとわりつくような嫌な感じが拭いきれずに、ヒヅキは困ったように頭をかいた。
(己が直感を信ずるべきか、はたまた己が観察眼を信ずるべきか)
直感ならば近々スキアとの戦闘があるし、観察した限りだと、今のところは特に差し迫った危機は感じられない。
危機管理的には最悪に備えるという意味で、直感を信じるべきなのだろうが。
「…………」
ヒヅキは周囲に目を向けながらしばらく考えると、直感を信じる事に決める。ただし、備えるのはあくまでもヒヅキ個人での話に留める。
とりあえず、いつ押し寄せるともしれないスキアに備えて、警戒感度を引き上げる。この砦には長居する訳ではないので、このまま警戒した状態を保っていてもまぁ大丈夫だろうという判断だった。
ヒヅキは食事を終えて空となった食器に目を落とす。
前線砦の割りに美味しい食事であった。
もしこれが最後の晩餐だとしても、不満はないだろう。
そう思いはしたものの、待ってくれている家族にもう一度ぐらい会わないとな、とヒヅキは思い直す。
スキアの大群といえども、ヒヅキなら一人で逃げるぐらいは可能だろう。
そういう訳で、もし無理そうなら逃げるとしよう。
そう方針を決めると、ヒヅキは少し肩の力を抜いた。
そうやって、まだ見ぬスキアとの戦いにヒヅキが備えた時、塔へと赴いていたシロッカス達が帰ってきた。