仕事10
「ヒヅッキーはさー、故郷に待たせてる人とか居るのー?」
「待たせてる人ですか?」
シラユリとサファイアの件から10日が経った頃、唐突にシラユリからそんな質問が飛んでくる。
「そーそー。彼女とか、許嫁とか、婚約者とか、奥さんとかさー」
「それは気になりますわね」
「ああ、なるほど」
あれからというもの、最早当たり前のようにサファイアも話に参加してくるようになり、諦めたのか、それをシラユリはもう止めようとはしなかった。
日中の警戒は三人で喋りながら行うようになっていた……ヒヅキにとっては不本意ながらも。
「そんな方は居ませんよ。待っているのは家族ぐらいです」
半ば呆れ気味にヒヅキはシラユリにそう答える。
ヒヅキにとっては興味のない話題だった。
「そうなのかー。ヒヅッキーはモテそうなのになー」
「そうですわね」
不思議そうにヒヅキを見上げるシラユリに同意しつつ、横ではサファイアがヒヅキの顔を覗き込むように眺める。
(面倒くさい)
そんな二人に、ヒヅキは内心でため息を吐く。
苦手ながらも、会話をするのは別にいいのだが、ヒヅキはあまり探られたり観察されたりすることを好まなかった。
そして、警戒に集中しようにも、両側から間断なく話しかけられては、気が散ってしょうがない。
そんな状況でも一応の警戒は出来ていたが。
ともあれ、前のようにスキアによる襲撃なんてものが起きることなく、ヒヅキが二人に絡まれ続けただけで時は過ぎていく。
そして更に5日が経過し、6日目の朝、やっとケスエン砦に到着したのだった。
◆
砦の門で身体検査や荷改めが行われたが、特に不審物も不審者も居なかった為に先へと通される。
責任者だけが砦奥に建つ、塔のように背の高い建物へと案内される。その際運んできた武器も一緒に持っていかれた。
砦の中央辺りにある広場のような開けた空間に、残されたヒヅキ達は通される。
そこで、待っている間にと、兵士たちより水と軽食が配られた。
ヒヅキはそれらを受け取ると、周囲の人たちが食べたのを確認してから、少し間を置いて口をつける。
配られた食べ物は、パンとスープが少しずつ。それに、一口分ではあるが、果物もついていた。それも中々に新鮮なものを。
それらを食べた人足たちは美味しそうに頬を緩める。
それを目にしながら、果物を口にしたヒヅキも瑞々しく確かに美味だと納得する。しかし同時に、何故武器を運んできただけの者たちにこんな贅沢な品をだすのかと、訝しくも思う。
(そこまで余裕があるのか?)
今は戦闘中ではないし、ここに来るまでにスキアも見かけなかった。しかし、ここが最前線であることに変わりはない。近くには村があるも、だからといって新鮮な果物がこんなに簡単に供出出来るほどに潤沢とは思えなかった。