神域への道52
止める間もなく黒髪の人物が消えると、残ったのは白い球体。大きさは手のひらに載るぐらいで、漂白したかのように白い。
(若干大きくなったか?)
黒髪の人物が消える前と比べてそう思ったヒヅキだが、比べられるほど白い球をじっくりと見ていないので、気のせいだろうと直ぐに思い直す。
『これはどうするべきか……』
『持っていかれてはいかがでしょうか?』
『大丈夫かな?』
『おそらく、ですが。先程の人物が言っていたあれが今代の神を指すならば、必要になってくるかもしれませんし』
『うーん。そうかな? というか、あれが今代の神を指すかもってよく分かったね。なんて言っていたか聞こえたの?』
『はい。¨あれとの戦いの時に必要になる。忘れないように¨と言っていました』
『そうか。まぁ、その前に何か待っている可能性もあるけれど、その可能性の方が高いか』
もしも今代の神相手に使用するのだとしても、白い球体がヒヅキ達にとって有利に働くとは限らないだろう。しかし、元々今代の神とは戦力差があるので、不利になったところで負けは変わらないとも言えた。もっとも、勝敗は女性や英雄達の活躍次第だろうが。
ヒヅキは白い球体を眺めながら考えた後、とりあえず触ってみる事にした。
「………………」
まずは慎重に指先で一瞬だけ触れてみる。それで特に何も感じなかったので、大丈夫だろうかと考えて掴んでみた。
(何ともないか)
数秒ほどそのまま待ってみたが、何か変調を来すという事はなさそうだったので、触ったぐらいでは何ともないようだ。
白い球体はツルツルとした表面をしている。指だけで強く持つと滑って飛んでいきそうなほどだ。それでいて光沢があるので、何処となく神秘的にも思えてくる。
重量は意外とあるようで、同じ大きさの石よりも重いかもしれない。表面を軽く指先で弾いてみると、重さ通りに結構密度もあるらしい。
「………………」
しばらく手のひらに置いて確認していたヒヅキだったが、それでも何か起きる様子は無い。
『時が来るまでは、ただの奇麗な石という事なのだろうか?』
ヒヅキは白い球体をフォルトゥナに渡してみるも、それでも何も起きる様子は無い。しばらく様子を見ても、結局何も起きなかった。
フォルトゥナから返された白い球体を何処に仕舞うか一瞬迷ったヒヅキだったが、直ぐに取り出せるように空間収納の方に入れておく。
『さて、他に何も無かったし、戻ろうか』
『はい』
ヒヅキは壁に開いた穴を通って戻ると、そのまま廊下に出る。
廊下を進みながら、ヒヅキが最後に部屋の方をちらと確認してみると、壁の穴がひとりでに修復していくところであった。
(やはりあれは誘われた、という事なのだろうな)
その様子を見たヒヅキは、そう結論付ける。そうなると、穴を開けて壁の向こう側へとヒヅキ達を誘ったのは、あの黒髪の人物という可能性が高い。
(最初に目撃してからちょくちょく目撃してたからな。もしかしたら付いてきていたのかもしれない)
その可能性を思い浮かべたヒヅキはそう思う。だが、もしそうでも、何故自分達に付いてきたのかまでは考えても分かりそうもない。
(英雄達にも目撃情報はあるのだけれども……まぁ、いいか)
相手が誰なのかも知らないので、思惑を考えたところで意味がない。そう思ったヒヅキは、考えるのを止めるのだった。それよりも、白い球体の使い方を考える方がずっと有意義だろう。
(仮に今代の神に対して使用する物だとして、あの白い球体は今代の神目掛けて投げつければいいのだろうか?)
白い球体の役割が分からないので、形状から考えるにその可能性が高いような気がした。重量は結構あるが、投げる分には問題ない重さだった。




