神域への道44
それからしばらく何も無い部屋が続き、やや足早に廊下を進んでいく。英雄達との距離も段々近くなってきた。
それでもまだ距離があるようで、遠くまで真っ直ぐ続いている廊下だというのに、未だにその姿は視認出来ていない。とはいえ、焦るほどでもないので、ヒヅキ達は引き続き部屋を調べながら廊下を進む。
そうして進んでいると、とうとう英雄達の背中を霞む廊下の果てに確認する。あまりにも遠いので細かな部分までは分からないが、それでも英雄達なのは分かった。他に誰も居ないというのもあるが、ヒヅキの感知魔法圏内でもあるので間違いないだろう。
しかし、だからといって急いで合流するという訳ではない。英雄達を視認しようとも、道中に在る部屋の確認は怠らない。
それでも、廊下を歩く速度はやや上げていた。そんな中で確認した部屋を見て。
「また珍妙な」
ヒヅキは思わずといった感じでそう呟いていた。その部屋には机や椅子などの普通の家具が在ったのだが、何故だかそのどれもが宙に浮いていたのだった。
警戒しつつも部屋の中に入ったヒヅキは、数歩進んだところで足が床から離れ、ふわりと全身を包み込むような感覚と共に宙に浮く。隣を見れば、フォルトゥナも同じように宙に浮いていた。どうやらこの部屋はそういう部屋らしい。
ヒヅキは移動しようと足を動かしてみるが、何度やっても宙を蹴るばかり。それでも一応進みはしているが、その速度はかなり遅い。
隣を見れば、フォルトゥナは足だけではなく手も動かして移動しているようだ。そのおかげで、歩くぐらいの速度は手に入れているよう。
ヒヅキもそれを真似て移動してみる。部屋は広いので、それでは移動速度が遅い気がするが、その代わりに家具にぶつかりそうになっても何とか回避出来ている。
そうして部屋の中を調べてみると、何冊かの本を見つける。しかし、中身を見ても字は読めなかった。1度閉じてまた開いてみても結果は同じ。ただ、本の中に図解付きで書かれたものがあったので、そちらの方を理解しようと読んでみた。
『うーむ……つまり、どういう事だ?』
人のような形に、矢印や円などの図形も描かれている。捕捉するように短く文字が書き足されているが、そちらは全く読めない。
図解だけ見ても、人に対する何かの影響について描かれているのではないかと推測するのが精一杯だった。
ヒヅキはフォルトゥナにも見せるが、フォルトゥナも首を傾げる。一通り見た後、何かしらの薬品を投与した実験について描かれているのではないかと所感を述べていた。そう聞いて改めて見てみれば、確かにそういう風にも見えなくはない。
『最後の方では目を回して倒れているような感じで描かれているけれど、これは被験者が死んだという事なのだろうか?』
他にも、凶悪な顔で笑っているような描写なんかもある。
図解自体はかなり簡略化した絵なので、細かなところまでは分からないが、それがもしも人体実験についてなのだとしたら、結果は失敗に終わったのではないだろうか。見たところ、どの被験者らしき存在も死んでいるか狂っているかしているようだし。
『この最後の部分に、最初の方のような簡略化された人が描かれています。最初の方は周囲に色々と文字が書かれていたので図の説明ではないかと思うのですが、ではこの最後の部分は一体何について描かれているのでしょうか?』
フォルトゥナが指摘する部分には、確かに立っているだけの人が描かれている。そして、横の方にずらずらと文章が書き連ねられているので、本のまとめの部分なのかもしれない。書籍によっては、参照にした本や文献、手伝ったり出資してくれた人物などについて書かれている事もあるが、文章量や改行の感じからして、おそらく内容のまとめなのだろう。
読めない事が非常に悔やまれるが、そこまで気にするほどではなさそうだと判断したヒヅキは、フォルトゥナに自身の所感を伝える。
それを聞いて、フォルトゥナもそうかもしれないと思ったのか、納得したように頷く。
それ以外で他に気になるところもなかったが、とりあえず図解はヒヅキ達でも分かるので、その本は持っていく事にした。




