神域への道41
それからも廊下を歩きながら、道中に在る何も無い部屋を確認していく。そうしていると、
「おや?」
廊下に何か白い物が落ちているのを見つけたヒヅキは、それに近づいて確認する。
『これは途中で置いていった石に似ている』
歪な形の白い石を拾ってそう口にしたヒヅキは、そのまま壁の方に視線を向けるも、そこに在るはずの傷痕はない。
『でも、壁に傷痕はないか』
光球に関しては既に魔力切れで消滅していて当然なので、全く気にしない。
壁の方に付けたはずの傷は、近寄って目を凝らしてみてもその痕跡すら確認出来なかった。
『修復したのか、別の場所なのか。それとも傷が付いたのは気のせい?』
壁を触って確かめながら、ヒヅキは首を捻る。傷を付けた時の感触は今でもはっきり思い出せるので、あれが幻覚だったとはヒヅキには思えなかった。しかし、実際に傷は消えているので、場所が変わっていないのであれば、修復したというのが有力だろう。
『この建物は生きている……というよりも、やはり時が止まっているという事なのだろうか?』
そうなると、これは傷を修復したというよりも、元の傷付いていない壁に巻き戻ったとみるべきかもしれない。
『まぁなんにせよ、とりあえずこの石は多分あの時に置いていった石だと思うから、この廊下は終端と始端が繋がっているようだね。もしかしたら、その先に次への道が在るのかも? あと、この道を戻れば転移魔法陣が在った場所に戻れるのか、それとも終端の方に戻るのか。どっちだろうか?』
そう疑問に思ったヒヅキだが、言うだけで大して気にしていない。転移魔法陣はもうほぼ用済みだし、終端は戻っても何も無いのだから。
『とりあえず、次は2階を探索してみようか』
『はい』
ヒヅキの言葉に、何かを考えていたらしいフォルトゥナも同意を示す。1階の探索はこれで完了だろう。
白い石を背嚢に仕舞ったヒヅキは、廊下を進む。途中の部屋を覗いてみるも、行きと変わらず何も無い。戻ってきたからといって、何か変化があるという訳ではないらしい。
それから速足で廊下を進み、無事に行きと同じように横道を見つける事が出来たヒヅキ達は、昇降機の前に到着した。
『そういえば、ここって階段がないね』
昇降機に乗ったヒヅキは、思い出したように扉横の数字を押したフォルトゥナに話し掛ける。
『そうですね。上下階への移動手段はこの昇降機だけしか見ていません』
昇降機への道以外には真っ直ぐな道しかなかった。部屋も倉庫以外は普通の部屋ばかり。そこに隠し通路や隠し部屋の類いは発見出来なかった。
という事は、昇降機以外に上下階へと移動する道はないのだろう。穴を開けるにしても、建物に抵抗があるので結構大変そうだ。魔導ならどうか知らないが。
直ぐに昇降機は2階に到着する。2階も左右に廊下が果てしなく続いているので、始端と終端が繋がっている可能性が高い。もしそうならば、どちらに行っても回ってくるだけで結果は同じだろうから、適当に選んだ方向に進む。
2階も構造は1階と変わらないようで、何処までも続く廊下と何も無い部屋が続く。フォルトゥナの話では、クロスではないが、少し離れた場所に英雄が数名居るらしい。
今度は何をしているのだろうかと思いながら、ヒヅキはそこを目指して進んでいく。途中の部屋も忘れずにしっかりと確認しているも、今のところはどの部屋も1階と同じだった。
廊下を進みながら、ヒヅキはフォルトゥナに英雄達の動向を尋ねる。それによると、今度の英雄達は移動しているらしい。といっても、ヒヅキ達よりは移動速度が遅いので、直に追い付くだろうという話だった。
それを聞いたヒヅキは、もしかしたらその辺りに本や道具なんかが置いてある部屋でもあるのだろうと考える。確実にそうだろうという訳ではないが、それを思えば、気が滅入りそうな移動も少しだけ楽になった。




