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神域への道35

 それは箱であった。地味な色合いで何の装飾も施されていない箱だが、丸まれば大人が入れそうなほどの大きな箱であった。

 ヒヅキは廊下から慎重に室内の様子を確かめた後、問題なさそうだったので部屋の中に入る。

 部屋の中からも様子を確かめたヒヅキは、罠を警戒しながら部屋の中央に置かれている箱に近づく。

『これは……革?』

 箱に近づいてみると、地味な色合いながらもよく見れば、それは全面に何かの革を貼り付けた箱であった。

『そのようです。ただ、記憶にあるどの動物の革とも違う気がします』

『何かギザギザしてるもんね』

 革の表面は鱗のように楕円形が密集したような模様なのだが、その楕円形の端の部分がギザギザしていた。そんな分かりやすい特徴があるというのに、ヒヅキとフォルトゥナの知識の中には該当する生き物がいない。

 少しの間記憶を漁ったヒヅキだったが、気を取り直して箱を調べていく。

 革張りという事と地味という事と簡単な造りの四角い箱という事以外は外観から読み取れない。見た限り罠は無さそうだし、フォルトゥナに確かめてみても罠は見つからなかった。箱には鍵穴が無かったので、おそらく鍵は掛かっていないのだろう。

 ヒヅキは慎重にふたに手を掛けると、ゆっくりと持ち上げる。しかし、ふたは思ったよりも軽かったので、直ぐにふたが開く。

 ふたをどかして箱の中を覗いてみると、中には1冊の本が入っているだけであった。

『何の本だろう?』

 警戒を緩めずに、ヒヅキは本を手に取る。その本も革張りのようだったが、使い古されたのかよれた見た目の革だった。

『分厚いな』

 その本は厚さ15センチメートルあるかどうかといったところだろうか。辞書と言われても納得のいく厚さをしていて、その分だけ重い。

 本を開いてみると、中は読めない字で書かれていた。途中で見つけた本棚に入っていた本の文字に似ている。

「むぅ」

 残念だ。パラパラと本を捲ったヒヅキがそう思って本を閉じると、それをフォルトゥナに渡す。フォルトゥナが本を受け取ると、ヒヅキは箱を調べ始めた。

 本を受け取ったフォルトゥナが本を開くと、そこには見覚えのある文字が書かれていた。

「?」

 先程ヒヅキが読めなかったのを知っているフォルトゥナは、どういうことだろうかと首を傾げる。そこに書かれていた文字は、紛れもなく人の国で使用されていた文字だったのだから。

『ヒヅキ様』

 その事をヒヅキに伝えようと、フォルトゥナはヒヅキに声を掛ける。

『ん? 何か分かった?』

『えっと、この本ですが、文字が変わったのではないかと……』

 閉じた本を両手で持って差し出したフォルトゥナの言葉に、ヒヅキはどういう意味だと首を傾げながら本を受け取る。

『先程確認しましたら、本は人間の国で使用されていた文字で書かれていました』

『え? 本当に?』

『はい』

 頷いたフォルトゥナを確認したヒヅキは、渡された本を開く。

「………………ん?」

『どうかされましたか?』

『これ、エルフが使っていた文字じゃない?』

 そう言って、ヒヅキは開いた本をフォルトゥナに見せる。そこに書かれていた文字は、人間の扱う文字に似ているが違う文字だった。

『そうですね。先程は人間の国で使われていた文字だったのですが?』

『ん~……なんでだろう? フォルトゥナが見たら人間の文字。私が見たらエルフの文字。しかし、今フォルトゥナが見てもエルフの文字……もしかして?』

 何かを思いついたヒヅキは、本を閉じてからまた開く。

『ああ、やっぱり』

 そこには、先程までエルフの文字で書かれていたものが、今では人間の国の文字で書かれていた。

『どういう事ですか?』

『どうやら本を閉じると、閉じた者が主として使用している言語に変わるようだね。渡す事も含まれるのかと思ったけれど、そっちは違ったみたい』

『なるほど』

 つまり、母国語が人間の国で使用されている言語であるヒヅキが本を開いて閉じると、中に書かれていた文字がヒヅキの母国語に変わり、母国語がエルフの言語であるフォルトゥナが本を開いて閉じると、中身がエルフの文字に変わるという事のようだ。

『仕組みは分からないけれど、中々意地の悪い。便利だとは思うけれど』

 普通、本棚から取り出した本が読めない文字で書かれていたら、本を閉じて本棚に戻して終わりだ。もう1度読めなかった本を読んでみようとは中々考えない。

 実際ヒヅキは、あの本棚ではそうだった。もしかしたらあの本棚の本も同じ仕組みだったのかもしれないが、大分移動したので、わざわざ確かめに戻る気力が湧かない。

 それよりも、今は手元の本である。読める文字に変わったのであれば、それを読むほうが先決だろう。そう意識を切り替えたヒヅキは、開いたままにしていた本に目を落とした。

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