神域への道33
最後に背表紙の文字を一通り確認した後、ヒヅキは部屋の方も調べてみる。しかし、部屋の方は今までの部屋と同じで何も無かった。
廊下に出た後、またしばらく進んだところで、ヒヅキはふと疑問が浮かんだのでフォルトゥナに尋ねてみる事にした。
『ここの探索も大分長いことしているけれど、こんな広い建物の中でどうやって集合するつもりなのだろうか?』
『それについては何も訊いておりませんが、他の者達がどうにかするのではありませんか?』
『まぁ、全員能力が高いからね』
フォルトゥナの回答に、ヒヅキもそれもそうかと納得する。ヒヅキがここでどうこう考えるよりもそちらの方が確実だろう。なので、その前にこの建物について調べる方に意識を向けるべきだろう。そうしておけば、何処かで誰かに会うだろうから。
『それにしても、この建物はかなり広いね。灰色の世界並みに広いのだろうか?』
灰色の世界はかなり広かった。白色の世界も広かったので、おそらくこの建物しか存在していない世界も相応に広いのかもしれないとヒヅキは考える。
『幅が無い分、広いのかもしれませんね』
『なるほど。もしそうならば、直線距離だけは灰色の世界よりも長いかもしれないね』
そうだったら大変だと小さく笑うヒヅキ。このままでは上階の調査は出来ないかもしれない。しかも、この建物は地下まであるという。
(いける範囲だけで十分だが)
移動中は魔導の練習も行っているので、何も無くて退屈ではあるが何とかなっている。魔導の方は順調に成長しているので、結果的にそれで良かったのかもしれない。
それからも何度か同じ事を繰り返すと、そろそろ少し休憩してもいいかなとヒヅキは考えた。肉体的にはほとんど疲労はないのだが、同じ景色ばかりで少しだけ精神的に疲れた気がしたのだ。
そう考えたところで丁度部屋の前に到着したので、相変わらず何も無い部屋なのを確認してから中に入る。
『少し休憩しようか』
『はい』
フォルトゥナに休憩する事を伝えた後、部屋の隅の方で防水布を敷いて腰を下ろす。座ってみると少し脚に疲労を感じた。
移動中にもちびちび飲んでいたので、残り1割ほどの水筒の魔力水を全部飲んだ後、取り出した水瓶から水筒に魔力水を補充しながら、フォルトゥナにも魔力水を注いだ飲水用の容器を渡す。
水筒への補充を終えると、ヒヅキも自分用の容器を取り出して、水瓶から魔力水を注いで飲む。
その後で保存食をフォルトゥナと分け合い、食事を済ませる。それらが終わると、魔導の練習をしながら、少しの間ボーっとする。
魔導にも大分慣れたもので、簡単な魔導ならば意識しなくとも構築と崩壊を繰り返す事が出来るほどになった。クロスや女性に教わった魔導の方も順調に修得していっている。もっとも、威力の高い魔導は難しいので、まだ構築するのに時間が掛かってしまうが。
それらの魔導をしっかりと我が物に出来れば、戦力としては十分だろう。ヒヅキはそう考える。もしもそこまで行けてもそこで停まるつもりはないが、とりあえずの目標だ。
(光の魔法を魔導で再現出来ないものか)
魔法と魔導は似ているので、互換性はあるとヒヅキは考えている。実際、今まで魔法を基にして魔導の構築が出来ているので、それは間違った考えではないだろう。
であればこそ、ヒヅキが扱える中で最強の魔法である光の魔法を、魔法の何倍も強力な魔導で再現出来ないかと考えるのは自然な流れだった。だが、今のところその試みは上手くいっていない。もしも上手くいけば、剣に光魔法を付加するよりも強力な切り札になるだろう。
ヒヅキはそう考えているのだが、他の魔法を魔導で再現するのとは勝手が違うようで、取っ掛かりからして上手くいっていない。なので、今のところは教わった魔導をしっかりと物にしようと、ヒヅキは意識を切り替えたのだった。




