神域への道32
しばらく同じ事を繰り返した後、ヒヅキは英雄達が居る部屋の前に到着する。
廊下から部屋の中の様子を窺ってみると、部屋の奥の方で英雄達3人がしゃがみ込んで何かをしているのを確認する。背中を向けているので何をしているのかまでは分からない。
ヒヅキは部屋の中の様子を外から確認した後、罠などが無いと判断して、そっと部屋の中に入る。その時部屋の中に満ちる奇妙な熱気に一瞬躊躇してしまったが。
部屋の中に入ると、何故だかヒヅキは息を殺して英雄達に近づいていく。何となくそうしなければならない気がしたのだ。
英雄達に近づくと、ヒヅキは肩越しに英雄達が何をしているのかを確認する。
「………………」
肩越しに確認してみると、英雄達はかなり精巧な人形を並べて鑑賞しているところだった。肩越しだったので全容は分からなかったが、見えた部分だけでもかなり精巧に出来ていたので、おそらく芸術作品として価値があるのだろう。
ヒヅキは鑑賞の邪魔をしては悪いと思い、気配を消したままそっと廊下に戻った。
廊下に戻った後、ヒヅキ達は足音を消して静かに進む。それから少し進んだところで普通に歩き始める。冷静になって考えてみれば、ヒヅキが英雄達にそこまで配慮する必要も無かったのだが、部屋に満ちていた妙な熱気に当てられたのかもしれない。
それからしばらくの間は、何処までも続く廊下を歩きながら、何も無い広い部屋を覗くという作業が続いた。しかしそれも、幾度目かに覗いた部屋で終わる。
「……本棚? 何故ここに?」
廊下から部屋を覗くと、そこには大きな部屋の中央辺りに、図書館辺りから持ってきたのではないかと思えるぐらいに大きな本棚が並べられていた。しかし、部屋自体がかなり広いので、それでもポツンと本棚が置かれているような印象を受ける。
ヒヅキは部屋の様子を外から確認した後、安全と判断して部屋の中に入る。
初めて何か置いてある部屋を見つけたので、ヒヅキは慎重に本棚に近づいていく。
本棚の前に到着すると、ヒヅキは本棚に何も仕掛けが施されていないのを数度確認してから、本棚に並べてある本を1冊引き抜いた。
引き抜いた本をパラパラと捲ってみるも、そこに書かれていた文字は見た事が無い文字であった。記号にしては複雑な物が混じっていたり、規則性も感じられるので、文字である事は間違いないであろうが。
『フォルトゥナ。これが読める?』
ヒヅキは手にした本を隣に居るフォルトゥナに差し出すと、そう尋ねる。フォルトゥナは元々国の中枢近くにいただけに、現在も使用されている文字であれば、大抵は読めるようだった。
ヒヅキから本を受け取ったフォルトゥナは、本を捲って確認した後に首を横に振った。
『申し訳ありません。私では判読できません』
『そうか。ありがとう』
本を返してもらいながら、ヒヅキは質問に答えてくれたことに礼を言う。
念の為に他の本も同様に確認してみたが、内容は似たような文字列が並ぶだけで、理解出来たのは一緒に描かれていた絵や図の部分が少しだけ。
『これはここを使っていた者達が使用していた文字なのかな?』
『おそらくは』
ヒヅキの問いにフォルトゥナが頷く。現状では今居る建物についてさえよく分かっていないので、この文字がそうだとは限らない。もしかしたら神の使用していた文字かもしれないし、何処かから持ってきた本というだけかもしれない。
そもそも、この建物が放棄されていると思っているのも推測でしかないのだが。
「………………」
手元の本に目を落としたヒヅキは、この本を持ち出すべきか否かと考える。解読すればいずれ読めるようになるかもしれないが、そんな時間はないだろう。流石に数分で読み解けるようなものではないのだから。
女性辺りならもしかして、と思わなくはないが、そもそもここは調べ終わっているだろうから、その必要はないかもしれない。それに、在るかどうかは分からないが、持ち出すことによって発動する罠も警戒しなくてはならない。
そういった事を考えたヒヅキは、どうせ読めないしと心の中でいい訳をして、手にしていた本を本棚に戻した。




