神域への道29
第2陣の調査報告内容は、建物の大きさが調査がまだ終わらないぐらいには大きいという事と、その建物はおそらく研究所だったのではないかという事だった。
詳しい報告で、建物は地上3階地下2階建てのとても頑丈な造りらしい。それに、建物内には様々な器具が残されていたとか。
安全面に関しては、探索した範囲では罠は発見されていないらしく、それに誰も居なかったので安全だろうという事だった。それでも一応転移魔法陣には常に二人が張り付いて護っているらしい。
建物の外に関しては、窓から見る限り何処までも荒野が続くだけらしいが、おそらくそれは幻影だろうという事だった。しかし、向こう側で指揮を執っているクロスがその幻影は放置していた方がいいという判断を下したらしく、調べられてはいない。理由としては、その先には何も無いからという事らしい。
額面通りの意味ではないだろうから、ヒヅキではその言葉の真意がよく分からなかったが、女性は理解出来た様子だった。
その後は気温やらの環境についての報告があり、報告を終えた者達は先に向こうへと戻っていった。
「問題なさそうですし、向こう側に行きましょうか」
報告内容を吟味した女性は、問題なしと判断して、準備を終えた英雄達から順に送り出していく。
そうして残っていた英雄達を全員転移魔法陣で向こう側へと送った後、女性は準備を終えたヒヅキとフォルトゥナと共に転移魔法陣に乗った。
転移魔法陣が目を焼くほどに眩しい光を発した後、直ぐにヒヅキ達は別の場所に転移する。事前に目を瞑って手で覆っていたので、ヒヅキは眩しい程度で済んだ。
少しして、視界の過度な明かりが収まった後、ヒヅキは周囲を確認する。
そこは白っぽい床や壁や天井の部屋だった。一人部屋ぐらいの広さで、見た目の質感は石のようでいて、しかし石とは違うような材質の部屋。
女性は直ぐに部屋を出ていったが、ヒヅキは部屋中央に描かれていた転移魔法陣から降りた後は、壁に近づいて触れてみる。
それはザラザラとした質感だった。よく見ると、そのザラザラした質感の正体は砕いたような小石のようで、それを何か白っぽいモノで固めて造られているようだ。今分かるのはそれぐらいだろうか。
天井の方に視線を向けると、小さな光球っぽいモノがくっ付いていた。小さいながらも明るい。
転移魔法陣を護衛していた英雄に関しては気にせずに部屋を出ると、真っ直ぐな長い廊下に出る。奥が霞んでるほど長いその廊下の右側には、ずらりと部屋が並んでいるようだ。しかも1部屋1部屋がかなり広いらしく、扉の間隔が家1軒分ほどある。
廊下の左手には、腰上程の位置に大きな窓が取り付けられているようで、外から入ってくる光だけで廊下はかなり明るい。廊下の天井も高く、横幅もかなり広いが、その明るさのおかげでそれ以上に広く感じられた。
(今まで見た事のあるどの王城よりも広いかも?)
まだ廊下を見ただけだが、ヒヅキはそう感じた。むしろ、廊下だけでもこれだけ広いというのに、何故転移魔法陣の在る部屋はあれほど狭かったのかと疑問に思ったほど。
周囲を見回しながら、ゆっくりと廊下を歩く。事前に調査が入っているので罠などをあまり警戒しなくていい分、何となく観光のような気分もしてくる。
廊下の深い藍色の床には、キラキラと光を反射させている石が混ぜられているらしく、僅かに煌めいている。
(ツルツルとした床だ。気を抜いていると滑ってしまいそうだ)
足下に視線を向けたヒヅキはそう思った。特に濡れていたら踏ん張りが利かなさそうだなとも思った。ただ、ツルツルしている分、掃除は楽かもしれない。
床の後は側面の窓の方に視線を向ける。窓はかなりの透明度があるらしく、外の景色がはっきりと見える。報告にあった通りに外は荒野のようだ。少なくともそう見える。
よく見ると窓は嵌殺しではないようで、調べてみると左右に動く事が分かった。
窓を開けて外に顔を出してみるが、建物の側面と荒野しか見えない。空気は乾燥していて少し砂っぽいので、まるで本当に外があるようだ。白い世界の後の箱庭を経験していなかったら、これが幻影だと言われても信じなかったかもしれない。それほどまでに本物っぽかった。もっとも、実際はどうなのかはヒヅキでは判断出来ないけれども。




