神域への道23
全ての歪みを調べ終わるのに数時間掛かった。全員で見て回るだけなら1時間も掛からないのだが、そこに調査も加わるとそれなりに時間が掛かった。むしろ数時間で終わったのは速い方だろう。
調査の役に立たなかったヒヅキだが、それでも一応全ての歪みは確認した。歪みの先の色合いしか分からなかったが、中には色が動いている場所もあったので、もしかしたら歪みの先には生き物が居るのかもしれない。
調査を終えて集まった女性達は、調査結果についての報告と話し合いを行う。
ヒヅキは完全に蚊帳の外ではあるが、それでもその話し合いに参加した。女性達の話し合いを聞いているだけではあったが。
調査と話し合いの結果、幾つかの歪みに候補が絞られる。1つに絞り込めない辺りが今代の神の面倒くささが分かるというもの。ヒヅキとしては、さっさと今代の神の許に辿り着いてけりをつけたかった。もっとも、それは女性や英雄達も同じ気持ちだろうが。
候補の歪みの数が多いので、女性達は分散して歪みの先を調べる事にしたらしい。全員実力者なので問題ないだろう。
調査期間は1日。それだけあれば当たりかどうかは分かるらしい。調査期間の1日が過ぎたら、仮に調査中でも歪みが並ぶこの場所に集合だとか。因みに、ヒヅキとフォルトゥナは留守番になった。
そこまで話し合いが終わると、まずは歪みの先と現在地が自由に行き来可能かどうかを調べる為に、英雄の一人が歪みの先へと向かう。
数秒後、歪みの先に行った英雄は問題なく帰ってきた。どうやら問題ないらしい。それが確認出来ると、女性達はそれぞれ担当の歪みの先に消えていった。
残ったヒヅキは、フォルトゥナ以外全員が居なくなった空間を見回した後、さてどうしようかと考える。留守番の期間は1日。それまでは自由にしていいが、あまりその場を動かない方が賢明だろう。
「………………ふむ」
何をしようかと考えたヒヅキは、歪みが囲む空間を出て灰色の道に戻る。そんなヒヅキの後を無言で付いていくフォルトゥナ。
歪みが囲む空間から少し離れたところで、ヒヅキは周囲を見渡した後に来た道を見通すように目を細める。
(大丈夫かな?)
見渡した範囲に何かが居る様子もなく、建物なども無さそうだと判断したヒヅキは、フォルトゥナの方を振り返りこれからやる事を説明する。フォルトゥナには周辺の警戒を頼みたかった。
『フォルトゥナ。これから向こう側に向けて好き勝手に魔導を放つ。その間の護衛というか、周辺の警戒をお願いしたい』
『畏まりました。御任せ下さい』
ヒヅキの言葉に、フォルトゥナは頭を下げて受諾する。それを確認したヒヅキは、来た道の方へと向き直した。
(よし、いきなり全力は何が起きるか分からないから、段階を踏んでいこう)
そう決めたところで、ヒヅキはまずは手元に小さな明かりを灯す。光球と似た魔導だが、こちらは純粋に光るだけの球である。ヒヅキが扱う光魔法の光球のように、決して衝撃で爆発したりはしない。
「………………」
問題なく光球が出たところで、それを動かしてみる。念じるようにすれば、上下左右に光球がゆっくりと動く。もっとも、それほど大きく動くわけではないが。
その確認まで終わらせたところで、ヒヅキは光球を消す。次は風を起こす魔導。その風も行使する度に段々強くしていく。強風まで起こしたところで、今度は火の魔導。火は流石に危ないので、何か不測の事態が起こった時の備えとしてフォルトゥナに水の魔法なり魔導なりの用意をしてもらう。
それでも念には念を入れて、火の魔導も小さいモノから徐々に火力を上げていく。そのおかげで最後まで何も起きずに終わった。強めに魔導を行使すると、それだけでとんでもない威力になるが、不思議と疲れたという感覚は無い。魔法であれば、既に少しは気怠さを感じていてもおかしくはないぐらいには魔導を行使しているのだが。
「ん~?」
疑問に思ったヒヅキは身体の様子を確かめてみるも、やはり疲れているという感じはしない。肉体的にも精神的にも問題はなさそうだ。どうしてだろうかとヒヅキが首を傾げると、それで察したらしいフォルトゥナが教えてくれる。
『魔導は周囲の魔素を使用するので、処理能力の限界を超えない限りであれば、魔法よりは長時間行使可能なようです』
『なるほど』
魔法と魔導の違いというのを知ったヒヅキであったが、思い出してみれば確かにそんな感じだったなとヒヅキは納得した。




