仕事7
夜営の談笑が鳴りを潜めた頃、ヒヅキは木に寄りかかって独り、星空を眺めていた。
夜間の警戒当番であるヒヅキは、耳を澄ませ、気を張り巡らせて周囲を警戒しながらも、静かに夜空に目を向ける。
澄んだ空気のおかげか、瞬く星が綺麗だった。
ただ、やはり不快感は伴う。
原因は星ではなく、月。
何故、太陽と月にこうも不快感を抱くのか、それは未だに分からない。
原因を掴めればどうにかなるのかも不明ではあったが、何も判らないよりは幾分かマシだろう。
「はぁ」
夜空に向かって吐いた息は白くはならないが、少しだけ肌寒くはあった。
そして夜は更けていく。
◆
翌日。
人足の人たちが起き出してしばらくすると、朝食のいい香りが漂ってくる。
見張りであるヒヅキは、代わりの見張りが来るか、みんなが出立しない限り持ち場を離れられない。
感知は離れていても可能ではあるが、戦闘体勢にはいる速度が変わってくる。一番の理由は、離れると気が緩んでしまうという気分的なものだが。
いつもなら、そろそろシラユリ辺りが朝食を持ってきてくれるのだが。
そう思っていると、背後から朝食のいい匂いが少しずつ強くなってきているのに気がつく。
ヒヅキは、シラユリが朝食を持ってきてくれたのかと、顔だけで振り返る。
「朝食を持ってきましたから、一緒に食べましょう?」
そこには、二人分の朝食を手にした、サファイアの姿があった。
「……え、ええ。ありがとうございます」
ヒヅキは意外な人物に驚きつつも、頷いて礼を告げてから、朝食を受け取った。
「隣、いいかしら?」
「ええ、勿論」
ヒヅキがそのまま木陰に座ると、隣に立ったサファイアがそう問い掛けてきた。
それにヒヅキが頷くと、サファイアは嬉しそうに微笑んで、ヒヅキの隣に腰掛ける。
「いただきます」
ヒヅキが手を合わせると、サファイアは僅かに黙祷を捧げた。
「朝食を食べ終えたら出発するらしいですわよ」
ヒヅキが朝食を食べ始めると、同じように朝食を食べようとしたサファイアが、思い出したようにそう告げる。それを伝え終わると、サファイアも朝食を食べ始めた。
「そうですか。わざわざありがとうございます」
つまりは概ね予定通りという事。危急な事態が何もないならそれでいい。
それからしばらく二人は黙って朝食を口にする。
「今日の護衛中ですが、ヒヅキさんに話し相手になっていただきたいのですが、よろしいかしら?」
朝食を食べ終える前に、サファイアはヒヅキにそう確認を取る。
「それは構いませんが」
どういう風の吹き回しだろうかと、ヒヅキは内心で首をかしげる。
「よかったですわ。本日はお世話になります」
朝食を食べ終えたサファイアは、ヒヅキへにこやかにそう告げる。
「こちらこそ、お世話になります」
サファイアの腹の内は窺いしれなかったが、ヒヅキはとりあえずそれに対して軽く頭を下げたのだった。