神域への道17
何時の間に仕掛けたのかと、ヒヅキは小さく唸る。いくら魔法と違っていて分かりにくいとはいえ、全く気がつかなかった。それに鳥達は他の鳥の事など気にしていないのか、どれだけ前の鳥が消えても気にせず次々と罠へと飛び込んでいく。
その様子を眺めながら、ヒヅキは色々と困惑する。ただ、考えても今は分からないので、直ぐに前を向いたが。
ヒヅキが前を向くと、女性達は少し離れたところを進んでいた。ヒヅキが鳥達を眺めている間も進んでいたらしい。
慌てて英雄達の最後尾に追いつくと、ヒヅキは鳥達の方へとちらと視線を向けた。その視線の先では、大分数が減った鳥達が変わらず罠に飛び込んでいた。あのままいけば、そう掛からずに全滅するだろう。
動物や鳥達の襲撃を受けた後、しばらくは平穏だった。灰色の世界は音が消えたかのように音がしない。ヒヅキ達が出す音はするので、灰色の世界では音がしないという訳ではないようだ。とすれば、単に誰も居ないからだろう。
(……いや、先程は動物も鳥も音がしていなかったか。唯一音がしたのは、巨人が移動した時の地響きぐらいか)
地響きはしても、巨人自体は何も音を発してはいなかった。そう思ったところで、ヒヅキは小さく首を振る。
(吹っ飛ばされる時に何かが折れるような音がしたか)
それを思い出したが、だが結局、それも巨人本人が何か音を発した訳ではない。何かしゃべったとか呼吸音がしたとか、そういうのは一切無かった。もっとも、そんな事をする暇もなく吹き飛ばされていたし、近づいたといっても先頭を歩いていた女性からも少し距離があったので、もしも巨人が呼吸していたとしても、最後尾に居たヒヅキの耳に呼吸音は届かなかっただろう。
とりあえず、あの巨人には実体はあったのだろうぐらいしか推測できない。ということは、似たような存在であるあの動物や鳥にも実体はあったのかもしれない。もっとも、それを知ったところで何だという話ではあるのだが。
結局、よく分からないという事しか分からない。音が無い訳ではないようだが、あの存在自身が音を発する事はおそらく出来ないようだ。それが何故かとか何の意味がとかは全く分からないのだが。まぁ、それはしょうがない。
これから先でまた似たような存在が出てきたところで、先頭を行く女性か英雄達の誰かが対処するのだろうから、ヒヅキはそれを見ているだけでいい。それを観察しながら、何か分かれば儲けものぐらいの心持でいいだろう。
そんな事を考えながら歩いていたからという訳ではないだろうが、遠目に見えていた村からぞろぞろと人が出てくるのが見えた。距離が縮まると、鍬やら鋤やらを手にした農民のようであった。ただし、例の如く全員灰色だったが。
人数は数10人といったところだろうか。一応明暗で顔は分かるようだが表情は無い。目は灰色の穴が開いているだけ。骨に皮だけを張ったかのような貧相な身体のその者達は、農具を振りかざすようにしながらヒヅキ達へと走ってきていた。
しかしそれも、ある程度近づいてきたところで一瞬で殲滅される。何をしたのかヒヅキには相変わらず分からなかったが、終わった事なのでいいだろう。
(今回は前回よりも少しは分かった気がするし)
少しずつではあるが、ヒヅキも魔素というモノに馴染んできていた。まだ時間はかかるだろうが、コツを掴めれば一気に進展するだろう。
それからも道を進んでいると、今度は豚や山羊や羊や馬や鶏などの家畜の群れとでもいうような一団が道の先からヒヅキ達の方へと駆けてきているのが見える。これは一体何なのかと思わなくもないが、ヒヅキとしてはそれよりも、その何かを殲滅する際に誰かが使う攻撃の方に興味があった。時間は掛かるだろうが、それでもやはり早めに魔素というモノには慣れておいた方がいいだろう。
そう思って意識を集中していると、迫っていた家畜達が一瞬で殲滅される。その際に行使された攻撃は、前回よりも更に形になってヒヅキにも理解出来た。
(まだまだ入り口にも立てていないだろうが……)
それでも少しは魔素というモノにも慣れてきたヒヅキは、そのまま周辺も探ってみる事にした。今なら少しは魔素という存在を感知出来そうな気がして。




