神域への道15
吹っ飛んでいった巨人の方へと視線を向けると、そこには勢いよく横飛びで離れていく巨人の姿。
巨体で地響きを鳴らすほどに重たい身体をよく吹き飛ばせるなと思いながら、ヒヅキが飛んでいく巨人を眺めていると、ある程度飛んでいったところでその巨体がふっと消える。まるで幻であったかのように消滅した巨人は、感知魔法からも同様に消失していた。
どういうことだろうかと思うも、何が起きてもおかしくはないだろうと思い直す。今居る場所は既に敵地の真っただ中なのだから。しかも神の支配域。
ヒヅキは消えた巨人から視線を前に戻す。女性達は何事もなかったかのように進んでいるので、ヒヅキもその後に続く。
しばらく灰色の世界を進んでいると、時折離れたところに村のようなものが目に入る。進行方向からは大分離れているので寄る事はないが、丘以外にも変化があるようだ。巨人は例外として。
途中で森のようなものも発見する。やはり道からは離れているので立ち寄る事はないが、こうしていると街道でも歩いているような気分になってくる。もっとも、村も森も全てがやや黒っぽい灰色なのだが。
これからどうなるのだろうかとヒヅキは考えながらも、感知魔法で周囲を調べつつ女性達の後に付いていく。もう結構歩いた気がするのだが、壁や結界のようなモノは何も見当たらない。
それから更に歩くと、女性が休憩を告げた。
ヒヅキはしゃがんで足下を調べてみる。地面を触ってみると、石とはまた違った硬さがあった。それでいて、ほんのりと冷たい。
触った感じ、座っても問題なさそうだったので、ヒヅキは防水布を敷いて腰を下ろす。
(この世界に時間は存在するのだろうか?)
ずっと一定の明るさを保っている灰色の世界に、ヒヅキは息を吐きながら考える。疲労感はそこまでは無いが、それでも僅かには感じる。大分身体能力が向上したというのにそうだということは、かなりの距離を進んできたということなのだろう。それか慣れない環境で緊張しているのか。
何にせよ、ここでの休憩は丁度よかった。そう思ったヒヅキは、力を抜いていく。休憩時まで変に緊張しても仕方が無いのだから。
(それに、俺が気張ったところで何の役に立つというのか)
今回の相手は今代の神である。今まで戦ってきた相手とは確実に次元が違う強さを有する存在。いくら力を吸収して強くなったといっても、元々遠く及ばなかったのだから、多少差が縮んでも誤差の範囲でしかないだろう。
なので、ヒヅキとしては補佐程度でも役に立てばいいなぐらいの気持ちでしかない。自分が主力だなどと微塵も思っていなかった。だからこそ、変に緊張しても意味が無いなと、ヒヅキは内心で苦笑する。そう思うと、少し気も楽になった気がしたので、やはり緊張していたらしい。相手が今代の神だと思えば、それもしょうがないのかもしれないが。
それに気がついたヒヅキは、らしくないなと小さく肩を竦める。結局のところ、相手が変わったところでやることは今までと然して変わりはしないのだから。
身体から余分な力を抜いたヒヅキは、1度周囲を見回した後、念の為に左腕の義手を点検してみる事にした。
義手を取り外した後、何処かに不備が無いかと調べていく。義手を作った者は点検しなくても問題ないぐらいに頑丈に作ったと言っていたし、今までも不備は一切無かったので、あくまでも念の為だ。何かしていた方が落ち着くという見方もある。
その場で出来る程度の点検だったが、それでも不備は一切確認出来なかった。左腕を元に戻したヒヅキは、左腕を動かして調子を確かめる。身体能力や内包魔力量が向上した事でやや加減の把握に時間が掛かったが、今ではその前と変わらぬほど自然に扱えていた。その自然な動作は、言われなければ左腕が義手なのだとは誰も気がつかないだろうほど。
ヒヅキはその挙動に満足すると、今1度息を吐き出したのだった。




