神域への道13
「………………」
壁を越えた後、周囲を見回したヒヅキは、変わらぬ平原の様子に、本当に壁を越えたのだろうかと疑わしくなる。
しかし、振り返ってみれば巨大な真っ白な壁が在り、一部が内部から大きく崩れているので、やはり壁は越えているようだし、現在地が先程とは別の平原だというのも間違いはない。
(何の為にわざわざ同じ風景を?)
どれだけ調べてみても壁の先に何か在るもしくは何か居るという訳ではないようで、ヒヅキはわざわざ箱庭を造って平原を区切った相手の意図が分からずに首を捻る。
『フォルトゥナ。こことさっきまでの場所で違いってある? 後ろの白い壁以外で』
『違いですか……?』
ヒヅキの問いに、フォルトゥナは黙して周囲に目を向ける。それから数秒ほどして返答があった。
『まず、力の濃度でしょうか。魔力の濃度はあまり変わらないようですが、別の力の濃度が上がっているようです』
別の力、ヒヅキはクロスから話を聞いた魔素ではないだろうかと推測しているが、実際のところはよく分かっていない。
『後は草の種類? が変わったようですね。見た目には然程違いは御座いませんが、先程までがただの雑草でしたが、今では力を放出している草に変わったようですので』
『草?』
フォルトゥナの説明に、ヒヅキは足下に生えている草に視線を向ける。意識を集中すれば、確かに何かを放出しているのが分かった。
しかし、よくよく集中しないと分からないほどに微量だし、それも群生しているから何とか分かったぐらいのもの。ヒヅキは別の力を感知するのに慣れていないとはいえ、それでも一面草だらけの場所でその程度という時点で推して知るべしというものである。
『他には何かある?』
『いえ。後は広さの違いぐらいで他は大方同じではないかと』
『ふむ』
先程までの草原と現在の草原の違いを聞いたヒヅキは、やはりわざわざ区切る必要があったのだろうかと首を傾げる。別の力の濃度以外にはそれほど変化はないのだから。
先に壁を越えた女性達は、何かを探るように周囲に目を向けながら、少しずつ先へと進んでいる。
その後に続きながらヒヅキも周囲を窺ってみるが、収穫はなさそうだ。
(そういえば)
そこでふと思い出したヒヅキは、遠くの方を調べてみる。結構遠くの方を調べてみるも、何も気になるモノは無い。限界まで感知範囲を広げたところで、ヒヅキは上に顔を向ける。
(壁は分からないが、屋根は変わらず在るのか。フォルトゥナに変化した場所について尋ねたが、壁や天井が無くなったとは言っていなかったからな)
その事を思い出したヒヅキは、天井を見上げながら、ここもまだ箱庭の中なのかと小さく息を吐き出す。
箱庭の外には何があるのかは知らないが、本当にここに今代の神が居るのだろうかとヒヅキは疑問に思った。もっとも、ヒヅキがそう思っているだけで、女性も英雄達も何も言ってはいないのだが。それでも英雄達の雰囲気からして、今代の神が近いのは間違いないのだろう。ただ、ここに居るかどうかはまた別の話ではあるが。
しばらく周囲を調べながら進むと、ヒヅキの感知にも壁の存在が引っ掛かる。壁はかなり先なので、どうやら規模は最初の箱庭の数倍ほどはあるようだった。
少しずつ移動速度が増していくも、壁まで到達するには今少し時間が必要そう。ヒヅキは魔力水を少し飲むと、何となく過去視を使用してみる。しかし、そこには前を歩く女性や英雄達の影以外は何も映らない。
(まぁ当然か)
そう思い過去視を切ると、もう1口魔力水を口にする。ここに何かが居たとしてもそれは今代の神ぐらいだろうが、今代の神であれば、ここを通らなくとも向こうの世界と行き来出来そうなものだ。つまりは何も映らないのは当然の結果だった。
ヒヅキもそれを理解しているので、過去視を使用したのは単なる気晴らしだろう。
それからしばらく歩くと、やっと壁の前に到着したのだった。




