神域への道12
しばらく遠景を観察していたヒヅキだが、結局何かおかしいという感想しか出ない。しょうがないので、ヒヅキはフォルトゥナに助力を求めてみる事にした。
『フォルトゥナ、向こう側に何かおかしなところはないだろうか?』
ヒヅキは遠くの方を指差しながら、フォルトゥナに問い掛ける。
『おかしなところですか? そうですね……申し訳ありません。壁しか確認出来ません』
『壁?』
『はい。景色を映している壁ですね。随分と手の込んだ仕掛けですが、壁自体はただの目隠しだと存じます』
『その壁は四方に?』
『はい。天井もあるので、箱の中といった感じでしょうか。魔法で起こした風も涼しくはあるのですが、この場合は風情が足りませんね』
フォルトゥナの言葉に天井を見上げてみる。小さな雲が流れている様子が確認出来るが、フォルトゥナの言を信じるならば、それもまた景色を映しているだけらしい。
遠景に関しては、違和感の正体が分かったと言えるだろう。感じた違和感というのは、そういう事だろうから。
風に関しては、威力的に攻撃魔法ではないようなので、そこまで弱くされれば魔法で起こした風なのか自然に吹いてきた風なのか判断が難しい。
とりあえず違和感はあるので、ヒヅキはフォルトゥナの言葉を信じる事にした。そして、では次はどうしようかと思案する。
『壁や天井の強度は分かる?』
『見た限りの判断になりますが』
『それでいいから、教えて』
『はい。壁や天井はそこまで強度はないかと存じます。この空間を維持するのに崩れない程度の強度ではないかと』
『なるほど、参考になった。ちなみに、この壁の向こう側には何があるのか分かる?』
『そちらは不明です。申し訳ありません』
『そっか。まぁ大丈夫か』
どのみち今代の神と戦うのであれば、穏便になどと言ってはいられないだろう。既にここは敵地なのだから。
『……そういえば、壁と天井は分かったけれども、地面の下はどうなの?』
『何も仕掛けは無いように見受けられます』
『そっか……』
穴を掘るというのは結構な重労働だ。それだけに、地面の下まで覆う必要はないのかもしれない。だが、ここまで来るような相手にそれは通用しないだろう。では何故かと考えたヒヅキは、必要ないからだろうと結論付けた。
(フォルトゥナの見立てでは、ただの壁と天井というだけで、防御的なモノではないようだし)
となれば、ただ地上を囲うだけでいいのだろう。フォルトゥナの言うようにただの目隠しの為に。
女性達は周囲を調べ終えた後、それぞれ何か準備をしていたようだが、それが終わったようで壁に向かって移動を始める。
ヒヅキもその後に続きながら、壁の向こう側には何があるのだろうかと考える。しばらくして感知魔法で壁の存在までは何とか掴めたものの、その先となると全く役に立たない。まるで壁から先が存在していないかのように。
女性や英雄達同様に戦闘態勢だけは維持しつつ、進行方向の先へと視線を向ける。壁の存在を知らなければ、何処までも草原が続いているようにしか思えなかった。
それから程なくして、先頭の女性が壁の前に到着する。箱庭の中は結構な広さがあったようで、移動に少し時間が掛かった。
壁の前に到着すると、女性は白い世界で結界を破壊した剣でもって壁を切り刻む。それで崩れた壁は消滅せずに瓦礫と化す。どうやら箱庭の壁は、石材か何かに魔法的な処置を施した物だったようだ。
そうして壁が無くなった事で見えた壁の先は、先程まで壁に映っていた草原と同じ景色だった。
「………………」
どういう事かと一瞬固まったヒヅキだが、女性達が壁の向こう側に移動を始めたので、直ぐに我に返ってそれに付いていく。
そうしてヒヅキも壁を越えるも、やはりそこに広がっていたのは、先程と同じ草原だった。




