神域への道11
今までの中で最も強固だったらしい漆黒の壁だが、それでも数秒保っただけ。ヒヅキではどれだけ掛かったか分からないが、相変わらず女性は凄いものだった。
薄気味悪い壁が消えたところで、女性は一旦休憩する事を告げる。休憩と言っても、息を整えるぐらいの短いものだったが。ヒヅキはその間に魔力水を飲んだり、補充したりした。
そして移動を再開させる。
漆黒の壁が在った場所を越えると、明らかに空気が変わる。今までと全く違うはっきりとした変化にヒヅキは周囲に目を向けるも、見た目は変わらず白一色の世界であった。
だが、周囲を探ってみると、ヒヅキでも分かるほどの何かがあるのが分かる。
(これが魔素なのか?)
そう思ったものの、確証はない。ただ、記憶にない力なのは分かった。おそらくそれは、今までの結界での変化を起こしていた力なのだろうが、今までが僅かな変化だったというのに、ここに来て急激な変化をみせた事になる。
(という事は、もうすぐ今代の神が居る場所に出るという事だろうか?)
ヒヅキがそう考えたところで、遠目に空間が歪んでいる場所が見えた。それは白一色の世界に入る時に見た歪みに似ていた。
(この道の終点か)
あれが本当に道の終わりであれば、ヒヅキの予想通りに今代の神の住む世界に到着という事になる。女性が短い休憩をとらせたのも、もうすぐ道が終わるからだったのだろう。
しばらく歩いてその大きな歪みに近づくと、突然歪みがなくなり、歪んでいた場所に風景が映し出される。
それは何処かの草原のような長閑な風景だった。風を受けた草が揺れる景色は何だか心癒される景色ではあるが、草が揺れる度に光の玉のようなものが飛んでいく様子は、そこがヒヅキが居た世界とは別の世界なのだと告げているように思えた。
しかし、他に何か映る事は無い。空は青色だが、何だか色合いが作り物っぽく見える。
空間に映し出されている景色の前に辿り着くと、女性はそのまま真っすぐ進む。そのまま景色と女性が衝突すると、景色が波紋のような歪みを起こして女性は景色の中に入っていた。
英雄達もそれに続く。続々と景色の中に入っていく英雄達。先に入った女性達は、景色の中で周辺を調べているようだ。
(問題なく映っているということは、景色の中に入った……いや、他の場所に繋がっているという事か)
そのまま景色の中に入るのは問題なさそうだと判断したヒヅキは、自分の番になってそのまま景色の中に入る。
一瞬だけ粘度の高い空間を抜けたような纏わりつく感覚がした気もしたが、無事に景色の中にあった草原に出られた。
草原を抜けていく風に、それが運ぶ匂い。草が揺れる音も、元々居た世界でヒヅキが経験したものとそこまで変わりはなかった。しかし、そこに流れている空気は清涼感を感じさせるような清々しさでありながら、それでいてよく分からない薄気味悪さがあった。
(魔力もあるが、同じぐらい別の何かがあるな)
その空気を調べたヒヅキは、白い世界と同じようなものなのだろうと結論付ける。通ってきた空間に目を向けると、そこには歪んだ空間があるだけ。
周囲に目を向ければ、女性や英雄達が現在地について調べている様子が窺える。ヒヅキも調べているが、残念ながら力にはなれそうにもなかった。
遠くの方に視線を向けてみるも、何処までも草原が続くばかり。
「………………んー?」
そのまま遠景を眺めていたヒヅキは、何か妙な感じを覚えて首を捻る。しかし、それが何かまでは分からない。
(何かおかしいような?)
そう思うのだが、ではそれが何かと問われれば答えられない。なので、何処か漫然と眺めていた景色を、今度は注意深く観察してみる事にした。それでも分からなければ、フォルトゥナに訊いてみようかと思いながら。




