神域への道9
現在の隊列ではヒヅキと女性の間には距離があるので、気軽に話しかけることも難しい。
女性が金色の光を斬ったのだろうという事は分かるのだが、分かるのはそれだけ。次の行動を見ればその意味も分かるかもしれないので、今は静かに待つ事にした。
金色の光を斬った女性は、1度左右を確認するように顔を動かすと、歩みを再開させる。
ヒヅキは何か起きるのかと、やや身構えながら歩むも、何か変化が起きるという様子は無い。そのまま金色の光が在った場所を通り過ぎるも、やはり何事も起きなかった。
結局あれは何だったのだろうかとヒヅキは疑問に思い、世間話をするようにフォルトゥナに問い掛けてみる。それは別に答えを求めてという訳ではなく、ただ何となく誰かに話したかっただけ。
『さっきの金色の光は何だったんだろね? 女性が斬っていたけれど』
『おそらくですが、結界のようなモノだったのではないかと』
『結界?』
『はい。先程空気が変わったような気がしましたので、その辺りが関係しているのではないかと』
『空気、ね……そういえば、クロスが前に何か言っていたような?』
いつだったか、魔素がどうたらとクロスが説明していたのをヒヅキは思い出す。しかし、クロスは忙しいようであまり時間が取れなくて、結局深いところまでは聞けなかったのだった。
(もしかしてあれの事か?)
その事を思い出したヒヅキは、もう少し強引にでも話を聞いておけばよかったかと思いながら、話の内容について思い出していく。
(ええと確か……魔力とは似て非なるモノだったか)
そこまで思い出すも、周囲には十分魔力を感じるので、関係ないのだろうかと考える。とはいえ、魔力が存在するところだと魔素が存在しないなんて話は聞かなかった。
(うーむ……魔力が邪魔だな)
意識を集中させるも、そもそも魔素という存在を話でしか知らないヒヅキでは、なじみ深い魔力の中から魔素を探すというのが難しい。周囲を探るも、纏わりつくように魔力を感知するばかり。
感覚的な話はクロスから聞いてはいるが、それで分かるほどヒヅキは優秀ではない。特に感知系は、ヒヅキ本人もあまり適性が高くないだろうと考えているほど。
そんな中で、本当にあるのかどうかも疑わしい未知の存在を感知するというのは、一種無謀にも思えてくる。
(無理そうだな)
クロスが話していた偽りの器周辺であれば、魔力がほとんど存在しない分だけ魔素の感知も楽だったのだろうが、そう上手くはいかないものだ。
とはいえ、諦めたヒヅキだが、フォルトゥナの言うところの空気が変わったというのは何となく理解は出来ていた。なので、もしかしたら原因は魔素というよりも、あの金色の光から先が今代の神の領域という事になのかもしれない。
そう思うと、ヒヅキは気を引き締め直す。実際はどうあれ、今居るのは敵の腹の中である事には間違いないのだから。
もっとも、だからといって何か出来ることがある訳でもない。女性に付いて進みながら、気力を高めておくぐらいだろう。ついでに周辺を探っているが、何も見つからない。
それからしばらく進むと、今度は半透明な青色が目に入る。まるで水中から見上げているように青色は揺らぎながら、進行方向を塞いでいる。
まだ距離はあるが、おそらく金色の光の時と同じようなものなのだろう。そしてこれも結界だとすると、道の途中に何重にも結界を張っているとは、今代の神は意外と用心深いのかもしれない。
そんな風にヒヅキが考えていると、半透明な青色の光が大分近くなる。相変わらず距離感を把握するのが難しいと思いながら、ヒヅキは大分近くなってきた半透明な青色の光を観察していく。




