神域への道8
数秒ほどして光が収まりヒヅキが目を開けた時には、そこには大きな空間の歪みが出来ていた。
「……問題なく弱体化出来たようですね」
空間の歪みの方に視線を向けながら、女性はぽつりとそう零す。どうやらヒヅキが目を瞑っていた間に偽りの器の破壊を終わらせていたらしい。常々、道を繋げたら同時にと言っていたので、ヒヅキが眩しさで目を瞑っていた数秒もあれば、偽りの器の許に転移して、それから偽りの器を破壊してから戻ってくるぐらいは当然のように出来るらしい。
偽りの器の破壊には当初の予定通りにクロスが行ったのか、それとも魔石や蓄魔石が必要数揃った女性が行ったのかは、残念ながらヒヅキには分からなかった。もっとも、作戦通りに偽りの器が破壊されているのならば、その程度はどちらでもいいのだが。
女性の呟きからして、とりあえず最初の段階は達せられたらしい。これで今代の神は弱体化し、ヒヅキ達の勝率も少しは上がった事だろう。
「では、行きましょうか」
女性がそう告げると、ヒヅキは英雄達の存在感が増したような気がした。現在の隊列は、ヒヅキと英雄達の位置が交代している。つまり先頭が女性で、次に英雄達、最後尾にヒヅキとフォルトゥナという隊列。
その隊列のまま、女性の掛け声と共に一行は歪みの中へと入っていく。
歪みの中は転移のようなモノではないようで、立っていれば一瞬で場所が変わるという事はなく、歪みを潜ると真っ白い世界に出る。
その白い世界を女性を先頭に英雄達が進んでいるので、ヒヅキも置いていかれないようにその後に続く。
そこは白いだけで何も無い世界だった。もしもそんな世界にヒヅキが一人で放り出されていたら、確実に迷っていただろう。そしてそのまま死んでいても不思議ではない。
距離も時間も平衡感覚も何もかもが狂いそうな白一色の世界で、ヒヅキは前を歩く英雄達の背中だけを追う。周囲を見たところで白色でしかないし、それにそちらに意識を向けてしまうと距離感が掴めないからか非常に歩き難かった。
白い世界に入ってどれぐらい歩いたか。時間の感覚すらあやふやな世界なので、その辺りもはっきりとしない。現在の移動時間は1時間程度かもしれないし、もしかしたら10時間ぐらいは歩いているかもしれない。この辺りは疲れをあまり感じないという事の弊害かもしれない。
そうして進んでいると、遠くの方で薄い金色の光が風になびくように揺れているのが目に入った。
(やっとこの世界の終点かな?)
どれだけ歩いたかは不明だが、白色ばかりで飽きていたので、やっとの変化にヒヅキは小さく息を吐き出す。もしも金色の光が終点でなかったとしても、やはり変化があっただけ気が紛れるというもの。
金色の光までの距離は掴みかねたが、それでもそこまで遠くにあるようには感じない。
女性もその金色の光を目指して進んでいるようなので、ヒヅキは内心で気合を入れ直す。同じ景色ばかりというのは、肉体よりも精神の方に疲労がたまっていくらしい。それとも精神が削られると表現した方がいいのだろうか。
それから少しして、一行はやっと金色の光の前に到着する。その金色の光は結構大きく、まるで首都を囲む防壁のようだ。それぐらいの重厚さも感じさせるのだが、それでいて先程からずっと風に揺れる布のように波打っている。
これが出口なのだろうか? ヒヅキはそれを眺めながら疑問に思う。遠目にはそこまで気にならなかったが、近くで見ると神秘的なだけで戸惑ってしまう。金色の光は地面にもついていないように思えた。もっとも、白一色なのでいまいち分からないが。
そんな金色の光が出口だとしたら、どうやって入るのか。触れれば勝手に外に出してくれるのだろうか? そんな事をヒヅキが考えていると、女性は何処からか取り出した抜き身の剣を握り、その剣で金色の光を薙いだ。金色の光までまだ少し距離があるので、見た目には届いていないのだが、しかし次の瞬間には金色の光は広範囲に横に裂け、幻であったかのようにふっと消失する。
今のは一体何だったのかと思ったヒヅキが女性の方へと視線を向けてみると、既に何処かに仕舞ったのか、女性は金色の光を斬った剣をもう手にしてはいなかった。




