仕事5
簡素な野営を築くと、一行は昼食を兼ねた休憩を取る。
前の護衛依頼の時より幾分かは日差しが弱くなっているとはいえ、荷運びしながらの歩みというものは、汗だくになるには十分な環境だった。
人足の人たちが食事を受け取るついでに新しい水筒の配給も済ませている間、ヒヅキは近くの木陰から周囲を窺う。
ガーデンから東北方面はなだらかな草原が続いているものの、前回までの北方や北西方面よりも木をよく見かける地帯だった。
その木は森どころか林というほども群生してはいないのだが、数人が木陰に入って一息つける程度には纏まって生えているので、意外と重宝した。
ヒヅキはずっと周囲の警戒をしているものの、これといった敵は見当たらない。スキアはともかく、ここまで賊を見ないというのは、本当に南方か他国に流れたとみて間違いないのかもしれない。それか、彼我の差を理解出来るぐらいには賢いか。
賊が南方に逃れている、というあの話は本当だったのかと思いもするが、ヒヅキが国境近くの村に居た頃には、幼い頃こそたまに見掛けはしたが、旅立つ頃にはほとんど賊とは無縁となっていた。少なくとも、村の付近にはそんなに存在していなかった。
とにかく、こういう状況では相変わらず護衛というものは暇であった。
空気が変わっているとはいえ、後方にまでスキアがポンポン出てくるようではもうお仕舞いであろうし、賊も軒並み廃業したのではないかというほどに見掛けない。
「…………」
そんな、ある意味安全な状況にあって、ヒヅキは妙な胸騒ぎを感じていた。
「ヒヅッキー?」
そんな漠然とした想いが微かに表情に出ていたのか、ヒヅキの隣にやってきたシラユリが心配そうにヒヅキの名を呼んだ。
「どうしました?」
そう言って、シラユリの方へと顔を向けたヒヅキの表情は、いつもの表情であった。
それに安堵の息を吐くと、シラユリは手に持っている食事を載せたお盆をヒヅキに差し出した。
「はい。まだ食べてないでしょー? ヒヅッキーの分も貰ってきたから、一緒に食べよー」
そう言いながら少女のように可愛らしく笑うシラユリは、やはり年齢を詐称しているとしか思えなかった。
「そうですね。ありがとうございます」
シラユリから食事を受け取ると、ヒヅキは軽く頭を下げて礼を告げる。
本日の食事は、一口サイズの硬いパンが複数個載った皿と、汁が妙に多いスープだった。
ヒヅキは一口サイズのパンをスープに全て投入する。
スープを吸わせてパンを軟らかくしてから、ヒヅキはスプーンを手に取った。どうやらこのために汁が多かったらしい。
パンがふやけて舌に絡みつくが、まだスープの水分は十分に残っている。そのあっさりとしながらコクがあるスープのお陰で、パンが舌の上で滑って喉の奥へと流れ込んでいく。
パンごとスープの具材を噛みながら、一気に流し込む。程無くして、ヒヅキは昼食を食べ終えた。