旅路145
地上に戻ると、誰かが生活していたとは思えないほど奇麗だった小屋を出る。正直、少しくたびれた本が無ければ誰かが住んでいたとは考えもしなかっただろう。それぐらいに家具などが奇麗で生活感が無かった。
(本は置いていただけという可能性も否定できないが……)
何にせよ、小屋の中は調べ終わったので、次に向かうことにする。女性が集めていた本の中身は気にはなるが。
(訊いたところで教えてくれるとは思えないからな。それと、小屋の鍵は多分あの村から受け取ったのだと思うが、知り合いだったのだろうか?)
よく分からないなとヒヅキは小さく首を振る。女性は永く生きているだけに、その分知識量などもだが秘密も多い。そして、しゃべる気の無い情報は一切語ろうとしない。それも誤魔化すとかではなく、黙するか正面から語るのを断られるので対処に困る。
もっとも、気にするだけ無駄かとも思うので、ヒヅキはあまり深く考えないようにしているようだが。
それから森を出て、細い道のような場所を通る。おそらく昔は人一人が通れる程度の道が出来ていたのだろう。草だらけで道が無くなっていても、平らなままの地面にヒヅキはそう思った。
その道を半日ほどひたすら黙々と進むと、眼下に盆地が広がる場所に出る。しかし、そこに在ったであろう村は、確認出来る範囲では全滅していた。徹底的な破壊具合から考えて、ここにはスキアが来ていたようだ。
斜面に造られていた畑を横目に下りていくと、最初の村に到着する。村には炭化している崩れた家が多く、石垣でもあったのか、それも散乱していた。
そんな惨状でも、死体どころか骨の1本も見当たらない。やはりスキアの仕業かと思うも、だからといって何かが出来る訳ではない。崩れた家を元に戻す事など出来ないし、骨も残さず死んだ者を蘇らせる事だって不可能だ。
村の中に入るも、焼け落ちた家ぐらいしか見当たらない。何かあるかと探す気も起きないほどに破壊されているので、一通り村を見て回ると次の村へと向かってみる。
だが、結果は上から見た通りで、どの村も完全に破壊されていた。破壊された村の近くで、破壊される事なく自然に飲まれかけている畑がなんだか虚しかった。
1日掛けて盆地内を見て回った後、休憩するのに丁度よさそうな場所で少し休憩する。
ここもまた何かに使われていた場所なのだろうかと、ヒヅキは座って休憩しながら、均された地面に触れて僅かに考えた。盆地からは少し距離があるとはいえ、間に森を挟むだけで片方は変わらぬ日常が続き、もう片方は何も残さず壊滅されるというのは、あまりにも大きな差だなとも。
もっとも、そんな事を考えたところで無意味なのも知っているので、一瞬だけそう思ったというだけの話なのだが。
休憩を終えた後、ヒヅキ達は盆地を出て次に向かう。しばらく進むと、一面花畑という場所に出る。吹きつけてくる風は甘く香り、視界には色とりどりの花が咲き乱れている。
様々な種類の花が咲き乱れるそのさまは、自然にそうなったとは思えない。という事は、ここは元々誰かが管理していたのかもしれない。
女性は花畑の中ほどまで進むと、立ち止まって周囲に目を向ける。少しして何かを考えるような仕草をした後、全員に少しの間休憩を告げた。
それを受けて、英雄達は各々適当にくつろぎ始める。ヒヅキは女性が何をするのかと思い、立ち止まったまま動向を観察する。
そんなヒヅキの前で女性は足下に目を向けた後、ジッと花畑を眺めていたかと思うと、唐突に魔法で足下の花を一部焼き払った。
焼き払った範囲はあまり広くはなかったが、何をしているのだろうかとヒヅキは首を傾げる。その間に女性は少し深めに土を掘り起こし、土をどかした場所に向けて青白い炎の塊を放った。
青白い炎の塊は爆発することなく、女性が掘り起こした場所に張り付くようにして拡がっていく。
それから程なくして、女性が今度は水の塊を出して掘り起こした場所にぶつけると、ヒヅキの耳にジュッという小さな音が聞こえてきた。




