旅路142
しばらくどうしたものかと、ヒヅキが入り口で悩んでいる間にも女性は本を読んでいき、何冊か置かれていた本を全て読み終わったようで、それらを全て空間収納に仕舞ってしまう。
その後に寝台に近づくと、寝台に敷かれていた敷布団を剥がし、そのままその下も取り外してしまった。
何をしているのだろうかとヒヅキが眺めていると、女性はそのまま寝台の枠の中に入ってしゃがみこみ、姿が見えなくなってしまった。見た目以上に寝台の中は深かったらしい。
「えっと……?」
少し待ってみても姿をみせないので、どういう事だろうかとヒヅキは首を捻る。
「とりあえず確認してみるか」
ということで、ヒヅキは小屋の中に入り、寝台を確かめてみる事にした。
寝台に近づいて覗き込んでみると、そこにはぽっかり開いた穴と、そこに備え付けられている梯子。
「ここには地下が在ったのか」
つまり女性は、ここから地下に降りたという事か。そう判断したヒヅキは、後を追ってみる事にした。だがその前に罠がないか調べておく。女性が通った後だからといって、安全だという保証はどこにも無いのだから。
一緒に居るフォルトゥナにも安全の確認を行った後、ヒヅキは慎重に梯子を下りていく。
地下は自然に出来た洞窟のようだった。しかし、感知魔法で調べてみるが、今降りてきた場所以外に外への出口は見つからない。もしかしたら他の出入り口を埋めたか、埋まった場所なのではないかとヒヅキは推測する。
それが事実かどうかは興味が無いので、ヒヅキは感知魔法で発見した女性が居る方へと進んでいく。
地下はひんやりとはしていたが、あまり湿気を感じなかった。もしかしたら空調設備は生きているのかもしれない。
そんな事を考えつつ到着した場所は、何処かの工房のような場所だった。
広い部屋に作業台が幾つも用意され、そこによく分からない機材が置かれている。どれも奇麗なままで、埃すら被っていない。ここが地下だということを考慮しても奇妙な光景だった。
そんな中、女性は置かれていた本棚からまたしてもパラパラと本を捲って読んでいた。ヒヅキ達が入ってきても気にした様子はない。魔法か何かで最初から二人の存在には気づいているにしても、視線さえ全く寄越さないというのも何だか奇妙な気分になる。
とはいえ、それで何か不都合でもあるかと考えるも、全く無いので問題ないだろう。何か尋ねれば答えてくれるだろうし、そうでなくてもやはり不都合はない。
ヒヅキ達は工房のようなその場所に入ると、早速色々と見ていく。
糸を紡いでいたのではないかと思われる場所から、隣にはその糸を織ってから何かに縫製していたのではないかと思われる一連の工程の場所や、調薬でもしていたのかもしれないと思わせる場所など。とにかく色々と置いてあった。中には人口の魔石や蓄魔石を生成していたのだろうと思われる場所まであるほど。
そうして調べていくと、鉱物のようなものも隅の方に置かれていた。魔法で鍛冶を行えば簡単な物であれば火を使わないので、そういった物も作っていたのかもしれない。
生産系の簡単な物なら何でもあるかのような設備に、ヒヅキは感心する。それだけの用意をするのにどれだけの労力が必要だったのか。それと共に、何故こんな場所で? という疑問も浮かんでくる。
女性は相変わらず本を読んでいるようで、読み終わっては空間収納に仕舞っているようだ。本の数はそれなりに在ったと思ったが、もうほとんど残っていない。
その本に何が書かれていたのか気になったが、女性の全てを拒絶するかのように集中している姿に何とも言えなくなる。
仕方なくヒヅキは本棚の近くに在った机の方に視線を向けると、机の上にはまだ1冊の本が置かれたままなのを発見した。




