旅路141
村を出た後、ヒヅキ達は森の中に入る。
静かな森の中で、遠くに薄っすらと鳥の鳴き声が聞こえた気がした。それを聞いて、村に人が居るのであれば、森の中にも動物が残っているのかもしれないとヒヅキは思った。もっとも、今まで人は居ても動物はほとんど居ないという場合しかないのだが。
しばらく森の奥を目指して進んでいると、たまにではあるがやはり鳥の鳴き声が聞こえてくる。つまりは少なくとも鳥はこの森に生息しているという事だろう。鳥の鳴き真似をする捕食者とかではなければだが、仮にそうだとしても、そんな存在が今でも生きているということは、この森には餌が居るという事に他ならないだろう。
だが、ヒヅキの視界の中には生き物らしき存在は確認出来ない。感知魔法だと何か遠くに居るのは分かるのだが、ヒヅキの感知魔法ではそれが何かまでは分からなかった。
(ただ、鳥にしては大きい気がするんだよな)
ぼんやりとではあるが対象について把握出来たヒヅキは、それの大きさがひと抱えほどあるような気がして、内心で首を捻る。そういう種類の鳥が居るのは一応知識としてはあったが、実際に近くで見た事が無いので、それがそうなのかどうか何とも言えなかった。
それから少しして、森の拓けた場所に出る。何か巨大な物でも空から落ちてきたのかというぐらいにぽっかりと拓けているその場所は、日の光がしっかりと差し込んでいるというのに、足首ほどの背丈の草しか生えていない。
(何か生長でも阻害しているのだろうか?)
その様子を見たヒヅキはそんな事を思うが、興味が無いのですぐに忘れた。
拓けた場所は結構広く、村ならひとつは余裕で入るだろうというほど。土は柔らかいのに木の1本も生えていないので、やろうと思えば直ぐに開墾が出来そうだ。
そんな拓けた場所の通り抜けると、また森の中に入る。森は想像以上に広いようで、しばらく進んでもまだ終わりが見えてこない。
夜が深くなった頃に少し休憩を挿むも、直ぐに移動は再開となった。
それから朝になり、昼になろうかという辺りで森の終わりが見えてくる。しかし、その直前で女性は足を止めると、注意深く左右を確認する。
程なくして進む方向を曲げると、終わりを前に森を出ずに森の中を横に進む。
何か在るのだろうかと思うも、そもそもヒヅキには明確な目的地というものが無いので、黙って女性に続く。英雄達は言わずもがな。
昼が過ぎたぐらいになり、視界に小屋が見えてくる。木を組んで建てたのか、簡単な造りのように見えた。
気配を探ってみるが、中に人の気配は感じられない。女性は小屋に近づくと、扉に手を掛ける。しかし小屋には鍵が掛かっていたようで、扉は開かなかった。
また透過するのだろうかと思ってヒヅキが見ていると、女性は空間収納から何の変哲もない1本の鍵を取り出す。
そしてそれを扉の鍵穴に差し込んで捻ると、カチャリとあっさりと解錠した。何故かは知らないが、どうやら小屋の鍵は元々持っていたらしい。もしかしたら、森に入る前に寄った村の長から受け取っていたのは、その鍵だったのかもしれない。
扉を開けると、女性は全員に休憩を告げてから中に入る。それぞれが思い思いに休憩する中、ヒヅキは気になったので小屋を覗き込んでみる。
小屋の中は見た目通りに狭い空間で、机と椅子と寝台が置かれただけで移動も面倒な狭さになっている。だというのに、更に本棚まで置いてあるのだからかなり狭い。
女性は本棚に置かれていた本を1冊手に取ると、パラパラと本を捲ってその中を確認していく。本当に読んでいるのだろうかと思える速度で捲られていくのを見ながら、ヒヅキは小屋の中に入ろうかどうか悩む。元々家主は一人暮らしだったのか、家具の間はすれ違えないほど狭いのだから。
せめて堂々と場所を占領している、小屋の大きさに不釣り合いな立派な机を外にでも出せればいいのだが、先程まで人が居たかのように奇麗なままの机を見ていると、勝手に動かしていいものかどうか少し悩んでしまう。机は中で組み立てたのか、そのままでは机が扉を通らないというのもまた面倒さをより一層引き立てていた。




