旅路135
その後に続いたヒヅキは、確かめるように壁に手を当てる。そうすると、何の抵抗も無く壁の向こう側に手が抜けていった。
(幻影の壁か)
そこに壁が在るようにみせかけているだけという単純な代物だが、それだけでも十分に効果的だろう。特に暗い中では違いが分からない。それにこの幻影の壁は感知では発見出来ないようで、ヒヅキの感知魔法では、目の前の幻影を未だに壁だと判断している。
しかし女性はこれに気づいたようなので、その結果はヒヅキ自身の未熟さ故ということなのだろう。そんな事を考えて内心で苦笑しながらも、ヒヅキは幻影の壁を通過した。
幻影の壁の先では、女性が光球を出して部屋を調べていた。どうやら壁を隔てているだけで、部屋同士が隣り合っているらしい。
部屋は隣と違ってそこまで広いという訳ではなさそうだ。それでも白い何かが居た部屋前のあの小部屋よりかは断然広い。奥の方を調べている女性の姿が随分小さく見えた。
ヒヅキも少し調べてみようかと壁の方に近づく。その間にも幻影の壁を越えて英雄達が部屋の中に入ってくる。幻影の壁が張られている出入り口は狭く一人ずつしか入れないので、そちらはまだ時間が掛かるだろう。フォルトゥナは当然のように隣に居たが。
ヒヅキも光球を出して部屋の壁を確認してみると、そこにも絵が描かれていた。やはり時の経過で大部分が剥がれ落ちてしまっているが、それでも無事な部分もあるようだ。
その無事な部分は、何かを崇めているような人々。しかし、崇めている相手は剥がれ落ちていて確認出来ない。
他に何か分かるような壁画が残っている部分はないかと、ヒヅキは壁に沿って移動していく。
「おや?」
しばらく進んだところで、新たに残っていた部分を発見する。そこには、やはり何かを崇めているような人々の姿。しかし、こちら側は先程と異なり、何処か恐怖のような部分を感じる。
相変わらず崇められている対象は剥がれ落ちているので分からないが、それでも最初の壁画の相手とは異なるような気がした。
他には何かないかと壁に沿って移動すると、今度は何だか神々しい感じの存在の絵が残っていた。
その存在は、何かを命ずるように手を前に突き出している。周囲の部分はほとんど何も残っていないので、実際には何の絵かは分からないが。
「………………」
しかし、その神々しい感じの存在は、見ていると不安にさせられるような得体の知れない何かを感じさせる。見た目にはおかしなところはなさそうなので、それが何かまでは分からないが。
その事をフォルトゥナに訊いてみるも、フォルトゥナはそんなモノは感じていないようだった。
そう感じるのは自分だけなのだろうかとヒヅキは思ったが、それはそれで別に問題はないので、次の絵を求めて壁を移動する。いつの間にか女性は部屋を1周していたようで、幻影の壁の通過を終えた英雄達と合流していた。
同じ部屋なので、何かあれば呼びに来るだろうと思い、ヒヅキは引き続き壁に沿うようにして部屋を回っていく。
それから幾つか残っていた壁画を発見しながら、ヒヅキ達も程なく部屋の1周を終えて英雄達に合流した。
ヒヅキ達が合流したところで、女性は移動を開始する。部屋に通路に出る場所があるのは、1周した時に確認済み。
そこから通路に出ると、広くて長い通路を進む。暗いので細かな部分までは分からないが、壁に何かしらの文様が彫られているような気がする。
それからしばらくの間真っ直ぐ通路を進むと、また広い部屋に出る。女性が出している光球に照らされた範囲には、壁際に石の長椅子が複数置かれた場所のようだ。
少し奥に進みながらヒヅキが部屋の中を見回した感想としては、そこはまるで公園か広場のような憩いの場のようだというものであった。




