旅路134
首輪に施されていた魔法について話を聞いた後、ヒヅキは扉が開いた時に出てきた白い何かについてクロスに尋ねてみる事にした。
「この部屋の扉が開いた時に飛び出てきた白い何かについて何かご存知ありませんか?」
「ああ、あれですか……」
そう言うと、クロスは何かを考えるように口を閉ざす。
口を閉ざして少しして、クロスは何を言うかを決めたのか口を開いた。
「解りやすく言えば、力の塊ですかね」
「力の塊ですか?」
「ええ。おそらくその首輪で捕らえられていたいたのでしょう。調べてみなければ詳しい部分は分かりませんので、これはあくまでも私の推論ではありますが、その首輪に施されていた術式を吸収して、それを使い捨てて一時的にですが姿を見せたのでしょう。術式を吸収したからと言ってそれだけで修得できる訳ではないですからね。まぁ、実体は持たなかったようですが」
「なるほど。あの力は何の力か分かりますか?」
「これもあくまでも推測でしかありませんが、遥か昔に居た強力な存在の一部なのではないかと」
「強力な存在ですか?」
「はい。それの名前は分かりません。そんな存在が居たという痕跡はほぼ遺されていないという奇妙な存在ですね。私も辛うじてそのような存在が居たのだろう程度しか存じ上げません」
「そんな存在が……」
「はい。これも推測でしかありませんが、どうも神に存在を消されたのではないかと」
「存在を消す?」
「はい。簡単に言えば、誰も覚えられないという感じでしょうか。それでも私が存在だけは知っているのは、僅かにそういうのに抗えたという事なのかもしれません」
「そう、なのですか」
「もっとも、それぐらいは許容範囲内という可能性もありますがね」
軽く肩を竦めたクロスは、残骸を元に戻して、他に何か質問はないかと問うた後に部屋を出ていった。
クロスが部屋を出ていくのを見送った後、ヒヅキは首輪の方に視線を向ける。
『あの首輪に施されていた魔法について理解出来た?』
ヒヅキではチンプンカンプンであったが、ヒヅキよりは魔法道具について詳しいフォルトゥナならば理解出来たのではないかと思ったヒヅキは、そう問い掛けてみる。
『……半分ぐらいでしょうか。今の私では、同じ物を作れと言われても作れません』
『なるほど』
1割も理解出来なかったと思っているヒヅキなので、それでも十分凄いなと思った。しかし、それでもまだフォルトゥナという女性を過小評価していたのかもしれない。
『ですが、ごく初歩的なものであれば再現可能かと。そこから研究すれば、そう掛からずにこれぐらいは作れるようになるかと愚考します』
理論を聞いたとはいえ、この場での簡単な説明を聞いただけで初歩的な物であれば再現可能というフォルトゥナに、ヒヅキは凄いものだと驚愕する。ヒヅキでは到底不可能な芸当だ。
『それは凄いね』
ヒヅキはそれについて素直に賞賛するも、それを本格的に研究する時間はおそらくもう取れないだろう。それは少々残念に思えた。とはいえ、これからもクロスから話を聞くだけでも十分な成長が見込めそうではあるのだが。
『さて、じゃあ出ようか』
首輪についてと白い何かについての話が聞けたので、もうこの部屋には用事は無いという事で、ヒヅキは光球を消して部屋を出る。
部屋を出ると、既に整列が済んでいた。そろそろ出発らしい。
現在居る小部屋は行き止まりのようなので、一行は一旦戻り、前の全容が把握出来ないぐらいに広くて暗い部屋に戻る。
そこから来た時とは道を逸れて別の方向に進むと、女性は壁の前で立ち止まった。
そこでキョロキョロと広範囲に壁に視線を這わせた女性は、場所を調整するように少し横に移動して、壁に向かって歩き始める。そうすると、女性は壁をすり抜けて奥へと消えていってしまった。




