旅路132
女性が開けた扉の先に移動したヒヅキは、まず光球を出して真っ暗な部屋を照らす。部屋全体を照らす為に普段よりは少々高出力で。
隅々までとはいかないが、それでも部屋の広さが把握出来る程度には明るくしたところで、ヒヅキは周囲を見渡す。
(確かに何かの残骸程度しかないようだな)
見渡した部屋は特別頑丈そうな部屋で、部屋の外の壁や天井なんかよりも部屋を形成している石が劣化していないような気がした。
広さは5,6人程度なら余裕を持って寝れそうなぐらいに広い。しかしそれだけで、残骸が少し在る以外には何も無い部屋であった。
ヒヅキはその残骸の近くに移動して、それを観察してみる。
(見た目は鉄っぽいけれど、錆びも何も無い。これが鉄ならこのまま店で売れそうなぐらいだ。それにしてもこの残骸は何の残骸だろうか?)
バラバラに散らばっているその残骸は、結構細かく分かれている。ただ、量はそれほどでもなさそうなので、おそらくそこまで大きなものではなかったのだろう。
触れても大丈夫だろうかと考えたヒヅキは、フォルトゥナを呼んで確認を取ってみる。ヒヅキが調べた限りでは問題ないとは思うのだが、念の為に。
『何かしら罠が施されている様子はありませんね』
『そうか、ありがとう』
フォルトゥナが調べても何も出てこなかったという事なので、ヒヅキは散乱している何かの残骸に触れてみる。
「………………」
触れても特に何もないようなので、ヒヅキはそのまま残骸を調べていく。
(これは金属なのか? しかし金属っぽくはある……)
残骸は硬いのだが、片面は弾力がある。軽く指で弾いてみると、衝撃を吸収したような鈍い音が響いた。反対側を同じように指で弾くと、やや高い音が僅かにした。
(2種類の何かを合わせているのかな?)
感触の違うそれらに、ヒヅキはそう結論づける。しかし、どれほど丁寧に確認してみても、その境目は確認出来ない。全て同じ素材で作られたかのように色も光の反射具合も全て同じに見えた。しかし、触れてみれば中ほどで違う感触に変わるのが分かる。
不思議な気分でその残骸を眺めた後、慎重に魔力を通してみると、どちらもすんなりと魔力を受け入れる。
(ん? これは元々何か魔法でも籠められていたのかな?)
その抵抗の無さに、ヒヅキはそう疑問に思う。しかし、魔法道具のように魔力回路が在るような感じではない。それでも何か魔法的な施しが在ったのだろうと、何となくヒヅキはそう思った。
(陣のようなモノか?)
腕輪の方に視線を向けたヒヅキは、そう考える。それは魔力回路を用いた陣ではなく、内部に魔力を用いて刻む方法。女性が陣を施してくれた装飾品はそうやって作られている。
ヒヅキはそちら方面に興味はあってもそれだけだったので、それが正しいのかどうかは分からない。それでも何となく、その予想は違うような気がした。
「うーむ」
考え込んだヒヅキだが、直ぐにそれに意味がない事に気がつく。魔法道具に関してさえ素人のヒヅキが考えたところで何か分かるはずもない。この辺りは詳しそうな女性に確認する方がいいのだろうが、今は丁度ヒヅキの隣で残骸を確認しているフォルトゥナに話を聞く方がいいだろう。
『フォルトゥナ。これは何か魔法が施されていたのだと思うけれど、フォルトゥナはどう思う?』
ヒヅキの問いに、フォルトゥナは観察していたその残骸を魔法的な面から調べてみる。
『……確かに何かが施されていた可能性が高いかと。しかし、それが何かまでは不明です。申し訳ありません』
『いや、馴染みが無いからそれはしょうがないよ。ありがとう』
フォルトゥナに礼を言って、ヒヅキは別の残骸を手に取って調べてみる。結果はそちらも同様なので、やはり何かしら魔法が施された何かの残骸という事になるのだろう。
しかし、女性の陣を刻む方法とてもう失われた技法という可能性が高い以上、それに酷似しつつも、別の方法であろう残骸に施された技法が分かる訳も無かった。可能性があるのは、同じ失われた技法らしき技術を持つ女性に尋ねることだろう。
とりあえずそれは後回しにしたヒヅキは、散らばっている残骸を可能な限り集めてみることにした。




