旅路129
『確かに光を吸収しているようだね』
いつもであれば足下ぐらいは照らせるほどの光量があるというのに、それがないという事でヒヅキはそう判断する。
(あれ? 前にも似たようなことがあったような?)
光を吸収する何かを以前に経験したような気がして、ヒヅキは内心で首を捻る。思い出そうとするも全く覚えていないのか、何も思い出せない。
気のせいだったかな? とヒヅキは思い、まぁ別にどうでもいいかと思い直す。それよりも、今は早々にこの場から立ち去る方が重要だろう。
ヒヅキは役に立ちそうにない光球を消すと、感知魔法を頼りに先へと進む。今のヒヅキが扱う感知魔法であれば、足下の状態を把握する程度は造作もない。なので、ただ進むだけなら問題はなさそうだった。
女性は後続を気にした様子もなく淡々と先へと進んでいるので、ヒヅキもやや急ぎ気味に洞窟内を進む。足下は凸凹としているがそこまで段差が大きい訳ではなく、森の中よりは歩きやすい気がした。
ヒヅキは後方の英雄達の様子を探ってみたが、そちらは全く問題ないようで、前を歩くヒヅキの移動速度に合わせているらしい。
ならばもう少し移動速度を上げようと考えたヒヅキは、足下に注意しながらも感知範囲をやや広げる。
それからひたすらに先へと進むと、程なくして外の光が僅かに差し込んでくる。だが入り口同様に、周囲に見えるのはただの真っ黒な世界。
それから直ぐに外の景色も見えてきて、女性にやや遅れて洞窟を抜ける。続いて英雄達も外に出てきた。
洞窟を抜けると、そこには荒れた土地が広がっていた。割れた地面に乾燥した空気。草が僅かに生えているがそれぐらいで、他は枯れた木が何本か確認出来た。
(あれは家か?)
荒野を見渡したヒヅキは、遠くの方で朽ちた建造物を幾つか見つける。もしかしたらここも昔は人が住める環境ではあったのかもしれない。
ヒヅキが荒野を眺めながらそう思っていると、英雄達が全員揃っているのを確認した女性が移動を始める。今回は思いっきり荒野を突っ切る道を進むようで、ヒヅキは念の為に風の結界を発動させておく。
道なき道を進みながら、ヒヅキは周囲に視線を向ける。何処までも干からびている大地が続くその光景は、元々この場所には生き物など存在していなかったのではないかと思わせるほどに寂しい光景だった。
そんな事を思いながらも進んでいると、不意に地面から振動を感じたような気がした。一定の間隔で届く振動は、まるで何か巨大な生き物が歩いているかのよう。
だが、何処までも見晴らしのいい荒野にそんな存在は確認出来ない。遠くに微かに山が見えるが、その間に広がっている荒野には岩が時折転がっている程度で、地を震わすほどの巨体を遮りそうなものは無い。
ヒヅキは首を傾げつつ、英雄達の様子を確認してみる。しかし、英雄達はいつもと何も変わらない。先行く女性も気にした様子もなく、それはフォルトゥナも同じだった。なので、ヒヅキは勘違いだったのかと思い直す。
しかし、直ぐにまた足下から振動を感じる。本当に僅かなので、何か巨大な存在が動いていたのだとしても、かなり遠方だろう。という事は、仮にこの振動の正体が本当に何か巨大な存在だったとしても、気にするだけ無駄なような気がしてくる。
それに、何が現れたとしても対処は容易だろう。もしも生き物だとしたら、それはそれで楽しみな気もした。
水筒から魔力水を飲みつつ荒野を進んでいると、途中から砂漠に変わる。規模としてはそこまで大きくなさそうではあったが、苛酷な環境には変わりない。足が砂に取られないように気をつけながら、ヒヅキは女性の後に付いていく。
それからしばらく進むと、すり鉢状の穴が姿を現す。それは何かの罠という感じはせず、見たところ地面に空洞があって、そこに砂が流れ込んだような感じだった。
女性はその縁に立って1度足を止めるも、数秒ほどして砂の斜面を滑るようにして中心へと向かって降りていった。




