旅路128
(ん?)
その洞窟の入り口を見たヒヅキは、何となく違和感がある気がして内心で首を傾げる。何がおかしいのかまでは分からないが、何かおかしいような気がした。
それが何か判明する前に、女性が洞窟の方へと移動する。
ヒヅキはその後に続いて洞窟の前にやってくると、そこでやっと違和感の正体に気がついた。
(なんだこれは?)
それを見て、ヒヅキは眉根を寄せる。
外から見る洞窟内は真っ暗であった。それ自体はおかしく無いのだが、問題は入り口も真っ暗で何も見えない事だろう。
現在居る場所は崖のようになっている高い岩山の麓で、そこに隣接する形で広大な森が広がっている。陽の光がそのどちらにも遮られているので一日中薄暗い場所だ。しかし、いくら薄暗いと言っても、真っ暗ではない。なので、洞窟の入り口付近ぐらいは目視出来なければおかしかった。
だが、実際に目の前には真っ暗な洞窟の入り口が在る。岩肌すら確認出来ないそれは、まるで入り口に真っ黒な膜が張っているかのようではあるのだが、かといって塗りつぶしたような黒という訳ではない。
確かに真っ暗で何も見えはしないのだが、それでもそこに洞窟が在るのは分かるのだ。それがより一層違和感を抱かせるのだが、少なくとも自然に出来た物ではないだろう。
女性は洞窟前まで来ると、キョロキョロと周囲を見回した後に中へと入る。ヒヅキもその後に続くも、その前に女性が何を気にしていたのかと周囲に目を向けてみた。しかし、特に気になるようなものは何も無かった。
内心で首を捻りながらも、僅かな緊張と共に洞窟の中に入る。
(特に何かあるという訳ではないのだな)
何かを通ったような感触とか、洞窟の外側と内側で景観が変わるとかそういった何かは無く、洞窟の中に入ると余計に真っ暗な世界が広がっているだけ。
(何も見えない)
魔法により暗い中でも視界を確保出来るヒヅキだが、そんなヒヅキでも洞窟の中は真っ暗にしか見えなかった。
『光球を使ってもいいと思う?』
一応感知魔法で周囲の様子は把握出来てはいるが、それでも視界を確保出来るのであれば確保しておきたい。そう思ったヒヅキだが、考えなしに光球を使用するのは憚られた。暗い中での明かりは便利だが、現在は何処とも知れぬ洞窟の中。何かしら敵が居ないとも限らないだろう。
これがヒヅキ一人であれば問題ないが、現在は女性をはじめとした集団行動中なので判断に迷った。そこで、ヒヅキは自身よりも広範囲の様子を探る事が出来るフォルトゥナに、光球を使用しても問題ないか尋ねた。女性に尋ねるのが1番だが、女性はすいすいと先へと進んでいるようなので、少々距離がある。走れば直ぐに追いつくが、感知魔法で周囲を把握しているとはいえ、真っ暗闇の中で走りたいとは思えなかった。
『問題ないかと。おそらくここはただの通路だと思うので』
『通路?』
『はい。少々入り組んでいますが、ここは山を通り抜ける為の道なのでしょう』
『そうなの? それにしてはいやに真っ暗だけれども』
『周囲が必要以上に暗いのは、そういう石で出来ているからかと。詳しく調べてみない事には分かりかねますが、おそらくは周囲の光を吸収する性質を持つ鉱石の一種ではないかと存じます』
『そんな石が在るの?』
『はい。光の吸収量はそれほどではないのですが、元々薄暗かった場所であるのと、周囲全体がその鉱石であるのならば、この暗さも納得出来ます』
『それはここに居ても大丈夫なの?』
『私も詳しくはないのですが、基本的に光を吸収するだけではありますが、生命力も吸収するという説も存在しますので、あまり長居するのはよした方が賢明かと』
『なるほど。とりあえず光球を出してみるよ』
フォルトゥナの話に頷くと、ヒヅキはいつも通りに光球を出してみる。そうすると、光球の発している光量が明らかに低下しており、光球を目の高さに浮かせると、自身の足下すらろくに見えないほどであった。




