旅路127
首飾り擬きを受け取ったフォルトゥナは、早速それを首に掛ける。元々輪っかが大きかったので、簡単に頭を通って首に掛かった。
首に掛かった後、フォルトゥナは自分で調節してちょうど良い長さに変える。それにより、指輪が首元に来るまで縮み、その縮んだ分だけ輪っかの紐の部分が太くなった。
その調整のおかげで周囲から指輪が見やすくなったが、ヒヅキはそれを見て邪魔そうだなと思った。フォルトゥナも同じように感じたのか、僅かに首を傾げた後で指輪の場所を手で確かめる。
そのまま指輪の位置を変えては、顔を動かしたりして動きの邪魔にならないかを確かめていく。
何度もそうやって確かめた後、もう1度考えるように首を傾げると、ヒヅキの方に顔を向けた。
『少し形を変えてもいいでしょうか?』
『それはフォルトゥナにあげたのだから好きにしていいよ』
フォルトゥナの要請に、ヒヅキは直ぐに了承する。ヒヅキとしては思いつきで造っただけの不用品なので、改造しようが棄てようがどうでもよかった。それこそ、原形を留めないぐらいに形を変えようとも何とも思わないほど思い入れは無い。
了承を得たフォルトゥナは、早速首飾り擬きの形を変えていく。
1度首飾り擬きを首から外した後、手のひらの上でグニグニと面白いように形を変えていく。しかし直ぐに動きを止めると、フォルトゥナは考えるように手のひらの上と鉱物置き場を視線で行き来させる。
程なくしてフォルトゥナは鉱物を幾つか手にすると、それらをささっと精錬して合金を造る。造ったのはヒヅキが造った合金とは少し異なるようで黒味が強い。
それと手元の金属を混ぜ合わせ、新しい首飾りを製作していく。そうして出来上がったのは、黒い輪っかにヒヅキが造った指輪が埋め込まれているようなもの。指輪は石とその周辺の金属だけが少し残っているだけで、大部分は輪っかの部分に混ぜたようだ。
ヒヅキとしては不要な物なので、首飾り擬きが別の物になろうとも全く問題ないのだが、出来上がったそれを見たヒヅキは、首飾りというよりも首輪だなと思った。
出来を確かめた後、フォルトゥナは嬉々としてそれを首に嵌める。変形を使えるだけに、取り付け部分の無い完全な輪っかだろうとも、首に付けるのは直ぐに終わった。
『どうでしょうか?』
ヒヅキに首を見せるように顔を上げると、フォルトゥナはそう問い掛ける。
フォルトゥナの透き通るような白い肌に黒い首輪というのは分かりやすく、不思議なことに、首輪単体だと首輪だなとしか思わなかったものだが、それをフォルトゥナが身に付けると、首輪というよりそういうお洒落道具のひとつのように思えてくる。つまり、意外と似合っていた。
『似合っていると思うよ』
なので素直にそう告げる。欲を言えば、指輪に使用した石の色が暗い赤い石ではなくもう少し明るい色であれば、黒色との対比で映えてよかったのかもしれないが。まぁ1番の問題点は、残っている指輪部分が安っぽい色合いの銀色というところなのかもしれないけれども。
ヒヅキの感想に、フォルトゥナは嬉しそうな笑みを浮かべる。
その首輪は他の誰かに見せる為の物でもないだろうから、それでもおかしくはないだろう。実際、少し気になる程度で別におかしくはなかった。
首輪が完成したところで、片付けを済ませてヒヅキ達は休憩場所に戻る。それを見計らった女性が、休憩の終わりを告げた。
休憩を終えて再度森の中に入る。来た方向とは違う森だが、同じ森で近い場所なので、そう大きく環境が変わるという事はない。
森の中を粛々と進む一行。不気味なほどに静かな森を女性の先導に従って進む。枝葉の隙間から見える風景に映る山が次第に大きくなってきた。
それは段々と木々の間からも確認出来るようになってくる。まだ分かりにくいが、山には小さな洞窟があるようで、暗い穴が森の先に在るのがチラチラと木々の合間に見え隠れする。
程なくして森を抜けると、森に隣接するように岩山が姿を現す。ヒヅキ達が森を抜けた場所から少し横に移動した場所には、遠目に見えていた洞窟が在った。




