旅路126
ヒヅキはまず小さな短剣に魔力を巡らす。そうして小さな短剣を掌握したところで、魔力を動かす要領で金属の形を変化させていく。
今回は刃を研ぐのが目的なので、見様見真似でも然程難しくはない。やる事といえば、刃を薄く鋭くするだけ。研ぎといっても、実際には研いだように形作るだけだが。
ヒヅキは刃物も見慣れているので、どれぐらいの薄さや鋭さにすればいいのかは大体解る。魔力を動かす感覚もかなり上達してきているのでこちらも問題はない。なので、結構簡単に小さな短剣の刃を研ぐ作業は終わった。
ついでに先端もより鋭くした後、ヒヅキは一通り確認してからフォルトゥナに小さな短剣を返す。今ので感覚は大分掴めたようだ。
『素晴らしい出来です』
小さな短剣を返してもらったフォルトゥナは、それを見て感嘆したようにそう言葉を返す。
しかし、フォルトゥナは基本的にヒヅキを大袈裟に褒めるので、言葉通りには受け取らない方がいいだろう。ヒヅキはそう思い、初めてにしては悪くないぐらいだろうと、脳内でフォルトゥナが下した評価を訂正しておく。
(とはいえ、これで簡単な物であれば自分で造れそうだな)
説明を受けて理解し、感覚でも理解出来たヒヅキは、早速近くの鉱物を手に取る。用意する金属は先程フォルトゥナが用意した物と同じ物。精錬しないと正確には分からないが、比率もおおよそ同じぐらいだと思われた。とそこで。
『ヒヅキ様。目的に合わせた配合の割合などの説明をしましょうか?』
何かを造ろうと鉱物を用意し始めたヒヅキに、フォルトゥナがそう声を掛ける。折角造るのであれば、目的に在った鉱石に、合金にするのであればその配合比率などを先に知っておいた方がいいだろう。というフォルトゥナの配慮に、ヒヅキは少し考え、
『では、装飾品を造る時の配合なんかを教えてほしい。時間がないから基本的なものでいい』
『畏まりました』
頷いた後、フォルトゥナは基本的な部分の話をする。耐久性の高い配合や、伸縮性のある合金の作り方など、腕輪や首飾りや耳飾りなどを例に用いた本当に基礎的な話で、主にこの鉱石とこの鉱石をこの比率で混ぜればいい。みたいな話を2、3話しただけで直ぐに終わった。続きは移動時間にでもという事らしい。
ヒヅキは早速話に聞いた配合で小さな合金を造ると、小分けした合金から指輪をひとつ形造る。細かな装飾の無い金属の小さな環だが、それでもしっかりと指輪になっていた。ただし、指輪にしては厚みがある。
(これにこの石を合わせてみるか)
ヒヅキは背嚢から小袋を取り出すと、見覚えのある奇麗な球体を取り出す。
直径約1センチメートルほどのそれを取り出したヒヅキは小袋を背嚢に仕舞い、手にした球体を指輪の上に置く。指輪は厚みがあるので、やや大きめのその石でも問題なく乗りそうだ。
(これに台座を造って)
出来た指輪を更に変形させて、指輪の上に台座を造る。そこに石を載せた後は指輪を更に変形させて石を固定し、そこにクルクルと細長い金属で石の周囲を緩く巻くように囲んで石が落ちないように固定させた。傍から見れば竜巻の中の石、いや囚われの石だろうか。強く振っても石はビクともしない。
普段使いとしては少し面倒そうな指輪が完成すると、ヒヅキは残った合金で大きめの環を造り、その中に造った指輪を通した。
(細かな装飾の首飾りを造るにはもう少し練習しないといけないからな)
そうして、指輪を通した首に掛けられるほどに大きな金属の輪っかが出来たが、とても野暮ったい感じで、自身の技術の無さをヒヅキは痛感する。もっとも、初めてにしては完成しただけ上出来だろうが。
その首飾りのようなモノを、ヒヅキはフォルトゥナに贈る。フォルトゥナであれば、輪っかや指輪の大きさを好きに調整できるだろう。それどころか手直しも問題なく出来るだろうから、ヒヅキが持っているよりは適任のように思えた。
『不要なら棄ててもいいからね』
何となく失敗作を押しつけたような気分になり、ヒヅキは最後にそう付け足す。
『いえ、棄てるなどそんな勿体ない事は致しません!!』
しかし、フォルトゥナは瞳に感動と決意を浮かべてそう言い切り、ヒヅキからの贈り物を喜んで受け取ったのだった。




