旅路121
少し休憩したところで、そういえばとヒヅキは思い出す。
『フォルトゥナ。あの地下の宝物庫に在った魔石とかはフォルトゥナが持っていたよね?』
『はい。こちらで保管しております』
『じゃあ、それは女性に渡しとこうかな。もう十分足りていそうだけれども、余るぐらいがちょうどいいだろうし』
ヒヅキはフォルトゥナから宝物庫に在った少量の魔石類を受け取ると、女性の許に近づく。
「先程の金属のお礼です」
そう言って、先程フォルトゥナから受け取った魔石類を女性に渡す。
「これで足りますか?」
「そうですね……ええ、十分かと。これで少し余裕が出来ましたので、多少の誤差は問題ないでしょう」
「そうですか。それはよかった」
女性の返答に、ヒヅキはそう返して先程まで休憩していた場所に戻る。
(これで他に見つけた魔石や、これから見つけた魔石なんかは自分用に確保出来る訳だ)
使うかどうかは別にしても少しぐらいは手元に欲しかったので、今あるのとは別に、次に見つけたら少量は確保しておこうとヒヅキは思った。
それから程なくして休憩時間が終わる。休憩を終えると、一行は森の中に入っていく。
森の中は涼しく、そして土とカビと緑のにおいがした。足下は腐葉土なのか柔らかく、最近人が踏み入った形跡は無い。
鳥や虫の鳴き声すら聞こえない森の中を、女性を先頭に真っすぐ進む。森自体はそこまで広い訳ではないが、木々が密集しているので歩きにくい。
それでも半日ほどで森の反対側に出ると、そこは平原。何処までも何も無いその場所には草しかない。遠くの方に山が霞んで見えるが、それぐらいだろうか。
女性は森を抜けてもそのまま進んでいく。一行の中で疲れを感じるのはヒヅキぐらいだが、そのヒヅキも半日ほど森を歩いた程度ではそこまで疲労はしていないので問題はない。
それからしばらく平原を進むと、ヒヅキは遠くに草以外の何かを見つけた。それはとても小さく、建物ではないのは直ぐに解った。
(石碑……いや、それにしては小さすぎるか。どちらかといえば、墓石の方が合ってそうだ)
段々見えてきたそれは、高さは腰よりは上だろうか。苔が生しているのか地味な色合いをしている。
はっきり見える位置まで近づくと、それはところどころ風化で崩れている岩であった。自然物にしては厚みがあまり無く整っているので、おそらく何者かが加工したのだろう。
近くで見るとやはり墓石みたいだなとヒヅキは思った。よく見れば何か文字らしきものが刻まれていた跡が微かに残っているが、風化の影響で文字は薄くなり、大部分は苔に覆われて隠れている。
女性はその岩の少し手前で立ち止まると、少し離れた場所の草を広く刈って休憩を言い渡す。その後、女性はその岩に歩み寄った。
ヒヅキは草を刈って出来た休憩場所に移動しながら、そんな女性を何とはなしに眺める。
岩に近づいた女性は、何処からか道具を取り出して岩の苔を落としていく。
岩全体に生していた苔だったが、女性はそれを直ぐに落としてしまう。その後に魔法で生み出した水で岩を洗い、奇麗にしたところで岩陰にしゃがみ込んで何かを刻むように腕を動かす。
それも直ぐに終わると、女性は掠れて判読不能な文字らしき溝を優しく指で撫でた。その様子は、まるで故人を偲んでいるように見えて、ヒヅキはそっと視線を外した。
おそらくそれは本当に墓石だったのだろう。それも女性に関係する者の墓。どれほど昔の墓なのかは知らないが、行動から女性にとってそこが大切な場所なのだろうと容易に想像出来るほど。
それから少しして、女性が休憩場所に戻ってくる。少しの間休んだ後、女性は全員に出発を告げる。
出発後は墓石を迂回するように進み、ヒヅキ達は更に平原の奥へと進んでいく。




