旅路120
「この金属屑が何なのかご存知なのですか? ……勿論、失敗作の破片とかそういう事ではなく」
ヒヅキは女性の目をジッと見据えて問い掛ける。そうして真剣な目つきで問い掛けても、女性は変わらず微笑みを浮かべたまま。
「そうですね……何かしらの力が内包されていましたね」
僅かに考えるような素振りを見せた後、女性は何処か惚けるようにそう言った。つまりは、知っているがそれ以上は教えない、ということなのだろう。
これ以上食い下がっても無意味なのだろうが、ヒヅキとしても丁度今1番気になっていた事なので、無駄だろうとは思いつつも問いを重ねることにした。
「その内包されていた力というのは何なのですか?」
「さぁ。何かしらの力を感じ取っただけですからね。それ以上については知りませんよ」
やや芝居がかった口調でそう答えた女性に、ヒヅキは内心で苦笑する。女性の場合これをわざとやっているので、本人としては話すつもりはないが、問答は楽しんではいるのだろう。
それにもう少し問いを重ねてみようかと考えたヒヅキだが、直ぐに無駄だろうと判断して「そうですか」と返して、今までの会話の内容を思い返してみる。
女性の話を纏めると、ヒヅキが受け取った金属は金属屑で、何かしらの失敗作を破棄する際に出来た破片という事であった。それで何かの力が宿っていたと。
「……これを何故私に?」
「ヒヅキなら気に入るかと思っただけですよ」
女性はふふふとでも笑いそうな穏やかな笑みを向けてそう言うも、ヒヅキは「お前には必要だろう?」 と言われた気がした。
おそらくその予想はそこまで間違ってはいないのだろう。女性の目的は分からないが、今のところ強化による弊害のようなものは無いので、渡された金属が今までの石と同じようなものであるならば、ヒヅキとしては確かに必要なのだろうと思えた。
「そうですか」
「ええ。不要ならそこらに捨てても構いませんからね」
全ての金属から吸収を終えたところで、女性はヒヅキの手元に一瞬だけ目線を落としてから休憩場所に移動していく。
(あれは吸収を終えるのを見届けたという事なのだろうな……)
はぐらかしながらも女性が話に付き合っていたのはその為だったのだろう。という事は、ヒヅキが力を吸収するのは、女性にとっては望む展開だという事になる。
(やはりこの力について何か知っているのだろうな。それどころか、何が何の為にこの力を吸収しているのかも知っている可能性が非常に高い)
離れていく女性を眺めながら、ヒヅキはそう推測する。それはほぼ確実だろう。ただ、先程の嘘というよりも冗談を言う様子から、女性がその事を話すつもりが無いのは容易に窺えてしまったが。
とりあえず、ヒヅキも英雄達が休んでいる場所に移動する。金属については不要だったので、ヒヅキはフォルトゥナに頼んで消滅魔法で処分してもらった。相変わらず便利な魔法である。
休憩場所では立ったまま休憩する。草を刈ったばかりなので青臭いが、そこまで気になる臭いでもなかったので、ヒヅキは内側の方に意識を向けていく。
(吸収した力は、変わらず痕跡も無く行方不明。身体の方は確かに強くなっているようだし、魔力量も大幅に増えている。これの制御はまぁ、問題ないだろう)
ヒヅキは魔力制御が得意なので、急激に増えたとしても直ぐに感覚を掴めたので問題はなさそうだった。
(今回吸収した力も、休憩しないと適応されないのだろうか?)
前回の事を思い出しながら、ヒヅキはそう推測していく。今回足下が土とか石であれば、仮眠ぐらいは取れたのになと少し思った。もしかしたら、ここで休んで吸収した力を適応させるというのが女性の狙いだったのかもしれない。ただ残念ながら、足下には背丈のそこそこ高い草と、それを刈ったばかりの青臭い草しかなかったが。




