旅路117
自身の変化を確かめるためには身体を動かした方がいいだろう。そう判断したヒヅキは、部屋を出て軽く身体を動かしてみる事にした。
とはいえ、時間も無いし軽く走った程度で何か分かるかは微妙なところではあるのだが。
宿屋を出たところで、ヒヅキは街中を走ってみる事にした。通りは整備されているうえに直線が多いので、走るには最適だろう。
広場と通りの境に立ったところで、ヒヅキは折角なので全力で走ってみようかとふと思った。誰も居ないうえに道は直線。走る場所に気をつければ障害物も無い。そんな訳は無いのだが、まさに走る為に造られたのではないかと疑いたくなるほどの好条件が揃っていた。
解すように手足を軽く動かしたヒヅキは、その間にフォルトゥナに防壁近くまで走って戻ってくる事を告げておく。そうして準備が整ったところで、ヒヅキは普段から掛けている身体強化に力を注いでより強化してから、思いっきり地を蹴り防壁を目指す。
風のようとはこの事かと言わんばかりの速度で駆けるヒヅキ。今まで感じた事がない疾走感に、流れる景色も驚くほど速い。それでいながら疲労や不調は一切感じないのだから、確かに強くなっているのだろう。
後は魔力に関してだが、これは今は検証し難い。使うだけなら簡単だが、それは時間に余裕がある時でないとその後に響いてしまう。
魔力効率というか、魔力操作に関しては現状変わってない気がした。もっとも、元々ヒヅキはその辺りが非常に巧かったので、上げ幅が気づかないほど小さかったという可能性も捨てきれないが。
結構長い道だとは思ったが、ヒヅキは数秒で防壁前に辿り着いてしまう。今までも全力であれば1分も掛からなかったとは思うが、それでも数秒では不可能だっただろう。なので、まるで転移した気分を抱いたほど。
ヒヅキは防壁に触れると、折り返して来た道を戻る。全力で走っていたつもりだったが、少し間を置いた事でまだまだ余力が残っていることに気がつく。
身体強化を更に強めに掛けた後、地を抜かんばかりに思いっきり脚に力を籠めて駆けだす。それに石畳が悲鳴をあげるも、気にするほどの事ではない。
1歩踏み込むごとに、まるで空でも飛んでいるかのように遠くまで移動していく。景色は先程以上に速く流れ、音も追いつけないほどの速度になる。それでも周囲の様子が知覚出来るほどに五感が冴えており、もうすぐ終点が近い事を理解した。
広場と通りの境に到着する少し前から減速するも、間に合わずに終点に到着して急停止する。その勢いでたたらを踏むも、それなりに巧く力の制御が出来ていたようだ。そして、今回は1秒ほどで戻ってこられた。それでもやはりまだ余力があるのを感じ、ヒヅキは思わず僅かに苦笑を漏らす。
(まぁ、今はそれはそれとして)
しかし直ぐに頭を切り替えて振り返る。そこには当然のようにフォルトゥナが居るのだが。
(あの速度でも息ひとつ切らさずに当然のように付いてくるのか……)
汗さえ全く掻いていないフォルトゥナは、走り始めた時と同様の涼しげな表情でそこに立っている。ヒヅキとしては、走って戻ってくる間待っていると思っていたのだが、ヒヅキが走り出した直後に追走を始め、戻ってくるまで離れる事無くずっと付いてきていた。
見た限りかなり余裕そうなので、更に速度を上げても問題なく付いてくる事だろう。以前までのフォルトゥナも十分強かったのだが、離れている間に急成長していたらしい。今のフォルトゥナは確実にヒヅキよりも強いだろう。
とはいえ敵対する予定は無いので、今はそれは横に措く。
深呼吸して頭を切り替えると、ヒヅキは女性の動向を尋ねる。クロスはもう他の英雄達と合流したろうが、ついでに尋ねておいた。
その結果、クロスは予想通りに英雄達と合流したようだが、女性は広場近くで何かしているようで動いていないらしい。それでもすぐ近くにいるようなので、そろそろ合流しておいた方がいいだろうと判断したヒヅキは、フォルトゥナと共に英雄達が待っている場所に向かった。




