旅路115
そんな疑問を抱きつつも、ヒヅキはその赤い石に触れてみる。骨が邪魔で取り難かったが、お腹の方の皮膚があまり残っていなかったので、そこから手を突っ込んで何とか取れた。
「………………」
手にした赤い石を眺めながら、ヒヅキはやはり何かしらを吸収しているなと目を細める。しかし、それで何か分かる訳でもない。
意識を内側に向けてみるも、やはり途中で痕跡が消えていた。消えている場所は同じではないが、吸収した何かが消えていく辺りを調べてみるも、何も見つからない。
困ったヒヅキだが、身体の方に異常は無いので、そちらから調べるという事も出来ない。何かしらの変化があれば、多少は何かが見えてくるかもしれないというのに。
しばらくして、赤い石から何かを吸収するのが終わる。そこで改めて赤い石を見てみると、暗い赤色の中に僅かにだがキラキラと光を反射させるものが混ざっていた。
「ふむ」
ヒヅキは手のひらの上でその赤い石をコロコロと転がしながら考える。この赤い石は宝石というよりも鉱石といった感じで、人工的に球状に加工された物だろう。
直径は1センチメートルほどだが、装飾品の一部としては大きいような小さいようなといった微妙な大きさ。それに暗い赤色は美しくはあるが、華やかさに欠ける。かといって、何かを引き立たせるには存在感のある深みがあった。
使い勝手は悪いが、それでも地味ながらも自然と目が行く美しさを持つそれを手のひらで転がしながら、ヒヅキはその赤い石をどうしようかと考える。吸収を終え、他に何か在るという訳でもないようなので、これもこのまま棄ててもいいだろう。しかし、それは何だか勿体ない気がしていた。
(宝石ではないが、これはこれで価値があると思うんだよな……)
それは、言ってしまえば単なる奇麗な石だ。今が世界崩壊の前夜でなければ、小遣い程度の値は付いただろう。高価という訳ではないが、無価値というには惜しい魅力を秘めている。
そんな気がしたヒヅキは、背嚢から小袋を取り出してそれに放り込んでおく事にした。大きい物でもないので、荷物を圧迫するというほどではない。
そこでふと思い出して背嚢内を漁り、外で拾った白い歪な球体の石もその小袋内に入れておいた。
小袋を背嚢に戻すと、ヒヅキは他に何かないかと遺体に目を向ける。しかし、他に目に付くものは無い。赤い石を除けばただの骨だ。
(もしかして、この石を封じていたとか? この人物が何なのか分からない事には何とも言えないが)
ここに遺体が安置されているのが石のせいなのか、はたまた骨になっている本人のせいなのかはヒヅキには分からない。もっとも、知ったところで意味も無いのでどうでもいいのだが。
他に何かないかと、寝台回りも調べてみる。フォルトゥナに意見を聞きながら、床や壁や天井も調べてみたが、結局何も無かった。
調べ終わった頃にはすっかり夜になっていたが、光球のおかげで明るいまま。
もう小部屋には用は無いので、ヒヅキは戻る事にした。部屋から出られなくする仕掛けはフォルトゥナが事前に破壊していたので、何の障害も無く廊下に戻れた。
それから来た道を戻り、気になる場所を調べていく。思ったよりも広い建物だったが、朝が来る前には大方調べ終えた。ついでに次の通路も見つけたので、そちらを進む。
今度も小規模の建物が通路の先に幾つか在っただけで、終着点は最初に調べた大きな建物だった。といっても、出たのは何処かの隠し部屋に在った地下のようだが。
そこから地上に出て、来た時と同じように使用人用と思われる食堂から建物を出る。
その後に正面から街の方に戻り一息ついた。その頃にはそろそろ朝も終わろうかという時間になっていた。
軽く休憩しつつ、そこでヒヅキは思い出したようにフォルトゥナに女性達の動向を尋ねる。そうすると、女性が休憩を言い渡した広場に全員が集まり始めているらしかった。




