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旅路113

『という事は、この人はここに閉じ込められていたという事か』

『魔法がそのままだった事を考えればそうなるかと』

 遮るものは何も無いと思っていた部屋だが、どうやらここは牢獄だったらしい。ヒヅキはそう認識を改めるも、それにしてはこの部屋には何も無さ過ぎた。それこそ、この遺体を寝かせる為だけの部屋のように見える。しかし、護りは侵入防止ではなく、出ていくのを妨げるというもの。

(やはり、この人物を閉じ込めておく為の場所なのか? だが、それにしては何も無いしな……)

 仮にここが牢獄だとすると、寝台だけしかないのはおかしい。

 この地に住んでいた者達が何の種族なのかは分からないが、それでも生きている以上、出るものは出るのだ。しかしこの部屋には、壷もなければ穴も無い。床の何処にもふたらしき感じも無いので、存在しないのだろう。

 それに換気が悪く、空気があまり動いていない。そんな場所であれば、誰かが暮らしていたり死んでいたならば悪臭のひとつもあろうというものだが、しかしそんなものはなかった。少なくとも、ヒヅキの鼻には異臭の類いは届いていない。

 部屋自体も奇麗なままなので、元々使用していなかった場所に寝台と遺体を置いたと考えた方がしっくりくるほど。

(だがそうなると、何故入れて出れないなんて仕掛けが? 入り口が隠されているからバレないと考えていた訳でもないだろうし、やはりそうだったとしても仕掛けの方がおかしい。ただ遮断するだけでは駄目だったのか)

 ヒヅキは理解不能な事態に、困ったように肩を竦める。だがここまでくると、調べるべき場所というのも決まってくるというものだろう。

 ヒヅキは視線を寝台の上に固定する。

『じゃあ、この死体を調べてみるか』

『はい。それがよいかと』

 寝台の横に立ったヒヅキは、まずは改めてじっくりと遺体の観察をはじめた。

 寝台の上に横たわって白骨化しているそれには、まだ干からびた皮膚が張り付いている。それでも半分程は骨がむき出しの状態だった。

 首の辺りから覗いてみると、内臓が見つからない。腐って溶けた感じでもないので、おそらくこうなる前に誰かが内臓を取り出したのだろう。そうなってくると、俄然死後ここに運び込まれた事になる。

 という事は、やはりこの人物にはわざわざ保管される何かが在るのだろう。それが何だろうかと、ヒヅキは遺体を観察しながら考える。

(………………いや、ひとつ考えられるか)

 ふとある可能性について思いついたが、その前に頭の目立たないところに小さな穴が開いているのを見つけた。

 それに視線を向けていると、視線の先でも辿ったのか、フォルトゥナが口を開く。

『おそらくですが、内臓同様に脳も取り出したのではないかと』

『脳も?』

『はい。細長い道具を頭の中に入れて、それでぐちゃぐちゃに脳をかき回して取り出すという方法が在るのを昔読んだ覚えがあります』

『それはまた……凄いものだ』

 その光景を頭に思い浮かべて、ヒヅキは引き攣ったような笑みを浮かべる。

 とりあえず頭の穴については考えない事にして、思考を先程の可能性についてに戻す。

(この者は、もしかしたら力ある者だったのかもしれないな。それでいて非業の死を遂げた)

 権力争いか何かの戦いによって、屈辱的な死を遂げた。そういった相手で、尚且つ強さを持つ者へは、その怒りを鎮めるために神として崇めるという風習がある場所もある。そういう風に、死後の怨念を恐れた何者かによって、ここに封印されていたのではないか、とヒヅキは考えた。それであれば、ここに寝台以外何も無く、かつ外にだけ出られないようにしてあるというのも納得出来るというもの。もっとも、仮にそうなっても効果があるとは思えないが。

 まぁここが何にせよ、この部屋がこの者の為に整えられら部屋なのだろう事は容易に推測出来た。少なくとも、こうして奇麗に横になっている時点で、間違って部屋に入って出られなくなったという事はないだろう。部屋だって奇麗な訳だし。

 そんな事を考えながら観察を終えると、ヒヅキはそっと遺体に手を伸ばす。

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