魔法
「ごちそうさまでした!相変わらずツグさんが作る料理は美味しいですね」
朝食を終えたヒヅキがツグにそう感想を伝えると、
「それなら良かったわ」
それにツグは笑顔で応えて、使った食器を片づけはじめる。
「ああ!それぐらいは俺がやりますよ!」
ヒヅキはそれを慌てて制止ながらそう返すと席を立ち、サッと食器を纏めて台所の流しへと持っていく。
事前に食器に着いた汚れは木で出来たヘラのようなもので刮ぎ落としてから桶に溜めた少量の水で丁寧に洗い流すと、それを風通りの良い場所に立て掛ける。
後はしっかり乾燥させてから殺菌作用のある葉で乾拭きするように食器の表面を擦るのだが、そこは今すぐには出来ないのでツグに任せた。
これがこの辺りの食器の洗い方だった。聞くところによると、地域によって様々な方法や工夫があるようで、特定の野菜の汁で洗ったり、米の磨ぎ汁や灰を使ったり、大皿を使って洗い物を減らしたり、食器は使い捨てだったり、パンなどの食べ物を食器に使ったり、そもそも食器を使わなかったり等々と、本当に多彩で、水が豊富な地域にもなると、水を贅沢に使って食器を洗うらしい。水に乏しい地域に住む者としては、もったいないというよりも羨ましい限りであった。
「自由に魔法が使えればもっと楽なんでしょうけどね」
そんなことを考えていたヒヅキの呟きに、ツグは残念そうな申し訳なさそうな笑みを浮かべた。
「そうね。でも魔法は適性が無いと現象の発現があまり起きない上に、ひどく疲れてしまうからね」
魔法というものは誰でも扱うことが出来るものなのだが、その結果は人によって天地以上に差があった。
極端な話だが、例えば同じ水の魔法でも、大洪水を起こせるような人が居たかと思えば、手を洗うのも困難な量しか出せない人も居たりする。これは一般的に魔法適性と呼ばれ、前者を魔法適性が高い、後者を魔法適性が低いと評した。
魔法適性が低い者が無理に魔法を行使しようとするとすぐに参ってしまい、酷い場合は一ヶ月以上意識を失ったままになってしまうこともあった。
ちなみに、ツグと同じでヒヅキも魔法適性はあまり高くはなかった。
この魔法適性は種族にもよるのだが、基本的には圧倒的に適性が低い者の方が多く、適性が高い者は貴重な存在であった。そうするとどうなるか、答えは簡単で、魔法適性が高い者は自然と地位も高くなるのだった。
しかし、数少ない例外として冒険者が存在していた。冒険者の魔法適性の高い者の割合は一般人のそれと比べるのも愚かしく感じるほどに多く、それでいて、冒険者の多くはあまり高い地位に就くことを好まなかった。
ヒヅキは洗い物を終えると、ツグに泊めてもらったお礼を丁寧に述べてから、ミーコ宛に簡単な伝言を頼んで、そのままミーコの家を後にしたのだった。