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旅路106

 石や周囲に何も無いのを確かめたヒヅキは、そっと石を拾い上げてみる。

 前回は持った瞬間にやけどしそうなほどの熱を感じたが、今回はほんのりと熱を感じる程度。

「………………」

 覚悟をしていたがその程度だったので、ヒヅキは気にせず石の観察を始める。

(やはり、石の中の何かを吸収しているな)

 石を観察しながら、ヒヅキはその石から体内に力が流れ込んでいるのを感じた。この辺りは1度経験しているので直ぐに把握出来た。

 吸収している力には悪意や害意といった嫌な感じはしないのだが、それでも正体不明の力が体内に流れ込んでくるというのは決して気分がいいものではない。

(これは本当に声の主が行っているのだろうか?)

 状況的に考えてそれ以外には無いだろうが、それでも確定した訳ではない。

 しかし、仮に本当にそうだったとすると、この謎の力はなんだというのか。

(女性のように封印された力とか?)

 分散した力と、それを吸収する存在。それらを考えて真っ先に思い浮かぶのはそれだろう。女性もそれにより弱体化させられていた。

 だが、そこまで考えて手元の石に目を落とす。それと共に、少し前に建物の床下収納で見つけた石について思い浮かべる。

 その2つを思い浮かべたヒヅキは、首を捻って考える。

(仮に女性の時のようなものだとすると、これも組み合わせると何か形になるのだろうか?)

 女性の場合、心臓を砕かれて封印されていた。なので、欠片を組み合わせれば元の心臓の形に戻った……と思われる。

 しかし、手元のそれとヒヅキの記憶にある最初の石だが、最初の石は奇妙な形をしていて、手元の石は歪ながらも球体。それらを組み合わせられるとは到底考えられない。

 そもそも、材質からして違うだろう。色だって異なるし、女性の時は水晶の欠片という統一性があったが、今回はそれがまるでない。強いて言えばどちらも石という事だろうか。

(いや、これは石なのだろうか?)

 持っている石を見て、ヒヅキは首を傾げる。

(ただまぁ、石の器の中にこの球体が入っているような形。みたいなものだったら可能性は在るのだろうが……)

 目のような感じのモノを頭に思い浮かべたヒヅキだが、その想像が何ともしっくりこなくて頭を振る。

(うーむ。多分違うな。それに、もしそうだとしたら、これに封印されているのは声の主の力という事になるだろう)

 それは仮定に推測を重ねての結論だが、正解ではなくとも間違ってはいないような気がした。

(もしもそうだとしたら……俺は大丈夫なのだろうか?)

 かつてヒヅキは、その身に大量の英雄の魂を宿していた。しかしそれで無事な訳もなく、英雄達の秘めている膨大な力によってヒヅキの器は破損しかけていたのだった。

 それも英雄達の魂の大半を外に出した事で一応解決したのだが、もしもここで声の主が力を取り戻したらどうなるというのか。最初からウィンディーネですら軽々と超えているほどの存在であったが、もしかしたらそれでも取り戻す力の総量は、取り出した英雄達の力の総量を超えてしまうかもしれない。

 そうなっては、元々英雄達の魂ですら取り出さなければギリギリだったヒヅキの器は、その力には確実に耐えられないだろう。そして、器が壊れればどうなるのか、そんなもの死以外にはない。

 ヒヅキはそこまでしっかりと理解している訳ではないが、それでも結末の方は簡単に予想がついた。

(まぁ、そうなったらそうなったでいいか)

 声の主が敵か味方かは分からないが、それでも今代の神に対抗し得る存在が蘇るというのはいい事なのだろう。今までの言動から推測するに、今代の神に与するという事はないだろうし。そうヒヅキは考え、困ったように頭を掻いた。

(普通はもう少し怖れるものだと思うのだが)

 自分のことながらも、死を特に気にしていない自分の思考に苦笑が浮かぶ。

 といっても、別に死にたい訳ではないし、実感が湧かないという訳でもない。ただもう大分昔から死というモノを受け入れているだけで。

(慣れた、という事なのかもしれない)

 そう思うも、左腕の義手に視線を向けると先程とは違った苦笑が浮かぶ。

 あの時は死を恐れた気がした。あの時はヒヅキとは違う別の何かが働いた気がしたが、それでも結果的にはヒヅキがそう思ったという事には変わりはない。だが、その時のことを思い出してみても、今は何故だかそんな気持ちが全く湧いてこなかった。

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