旅路105
宝物庫を出た後、元々進んでいた道に戻ると、そのまま道の続きを進む事にした。
『妨害していた魔法道具を止めたからか、何だか視界が開けたような気分だね』
少し前までの状況を思い出し、ヒヅキはそっと苦笑する。今の状態であれば、ヒヅキも隠し通路の内部の情報がある程度は把握出来る。
『はい。周辺の状況がより鮮明に分かるようになりました』
ヒヅキの言葉に同意を示したフォルトゥナだが、ヒヅキとでは視えている景色はまるで違うのだろう。
脱出路だと思われる隠し通路は、宝物庫への横道以外は真っすぐに伸びていた。おかげで迷いはしないが、これはこれで不用心ではないかとヒヅキは内心で首を傾げる。それともここは、脱出路とはまた違う目的なのだろうか。
そんな事を考えながら進むと、程なくして出口が見えてくる。明かりが射し込んでくるので、外と繋がっているのだろう。
出口に到着すると、そこから外の様子を窺ってみる。
『ここは……草原? 周囲には何も居ないようだが』
隠し通路の先に続いていたのはどうやら何処かの草原だったらしく、長閑な光景が広がっている。
(という事は、やっぱり脱出路だったのか?)
ヒヅキは疑問に思いつつ周囲に目を遣る。足下付近にも視線を落とすが、やはり単なる草原で、隠し通路の中にまで草が伸びていた。
『この出口、塞がっていなかったのだろうか?』
足首ほどまで伸びている足下の草に目を向けながら、それとも単に育ちが早いだけだろうかとヒヅキは首を傾げる。
『おそらくは。出口付近の地面に何かしら置いていたような跡もありませんし、壁に砕かれたような跡もありません。それに魔法的な護りがあった痕跡は在りますが、そこまで強い魔法ではなかったようです。なので、幻影か何かで出口を誤魔化していたのではないかと』
『そんなのでずっと誤魔化せるものなの?』
『この辺りはあまり人が立ち入る場所のようには見受けられないので、余程の偶然がなければ問題なかったのかと。それか……見落としているだけでここにも何かしらの仕掛けがあったのか』
この隠し通路もだが、探索しているのが仕掛けが多い建物だっただけに、その可能性も大いにあるだろう。フォルトゥナはしゃがんで出口と地面の境を凝視している。
その間にヒヅキは、外に出て平原を調べてみる事にした。
慎重に隠し通路から外に出たヒヅキは、まずは周囲に目を向ける。どうやら周囲は何処までも続く草原のようで、背の高い草も多く生えていた。
周辺を探ってみるが、何かが居るという事はない。いかにも何かが隠れていそうな背丈の草が繁茂しているというのに、残念なものである。
ヒヅキは足下に注意しながら進む。通常の罠は勿論のこと、魔法的な罠にも気をつけなくてはならない。その辺りも何とか分かるようになってきたので、慎重に進めば問題はないだろう。
そうしてヒヅキが草をかき分けてゆっくりと進んでいると、視界の端に光る物を見つける。
「何だ?」
キラリと光るそれに注意深く近づくと、そこには親指ほどの大きさの淡い白色の物体が落ちていた。
「これは……」
歪な球状のそれは、昔読んだ図鑑に書かれていた真珠と呼ばれる宝石に似ていた。しかし、それから妙な気配を感じて数歩間を空けて立ち止まる。
(魔力……なのかな? この感じは、あの石のやつに似ているか)
建物の中で床下に隠されていた石。その中に在った妙な気配を放っていた石で、ヒヅキが触れると、おそらく声の主がその中身を吸収してしまった。
(ではこれも?)
その事を思い出したヒヅキは、似たような気配に、これも同じモノなのだろうかと考える。
(この辺りであの石は集められていたのだろうか?)
似たような気配がする石。見た目や形は違えども、それが同一のモノであるならば、近い場所に在ってもおかしくはないだろう。しかし。
(いや、こんな草の上に在る時点でおかしいから、自然にこうなった訳ではないだろう)
まるでポトリと誰かが草の上に置いたかのような雰囲気に、ヒヅキはどうするか悩んでしまう。もしかしたら落としてしまったという可能性も考えられるが、仮に作為的なものであった場合、どんな意味があるというのか。
(そもそもこれが何か分かっていない訳だけど)
悩んだヒヅキは、まずは妙な気配の正体を探ろうと思い、目の前の石を拾ってみる事にした。




