旅路103
はっきりとした知覚で改めて周囲を探ってみると、ヒヅキが調べている魔法道具の裏側、フォルトゥナが向かった場所にも何かしらの魔法道具が置いてあるのが分かる。
他にも僅かだが魔石のような反応もあるので、意外と物が残っているのかもしれない。
それとは別に、壁の方に一部妙な反応を感じているので、何かしらの罠でも仕掛けられているのだろう。そちらの方は触らない方がよさそうだ。
宝物庫の事を粗方把握したところで、魔法道具の方に集中する。まだまだ色々と仕掛けられているので、ヒヅキはそれらを調べながら無力化していく。
その途中でフォルトゥナが戻ってきたが、何かを持ってくるという事もなく、ヒヅキが魔法道具を無力化しているのを眺めはじめる。
ヒヅキが調べている魔法道具は大きいので、その分どうしても時間が掛かるが、それでも魔力に対する感度の良さのおかげで組み込まれている仕掛けをサクサクと無力化していく。
その速度はフォルトゥナでも真似出来ないほどの速度で、フォルトゥナは小さく感嘆の息を吐き出す。
やはり魔力に対して鋭敏というのはかなりのもので、妨害に対する処置の時もそうだったが、ヒヅキは経験と知識さえどうにかなれば、フォルトゥナどころか女性すら超えられるかもしれないほど。もっともその場合、魔力量の対策も同時に行わなければならないが。
問題があるとすれば、それは時間と記憶力だろうか。
時間は今代の神がこの世界は破壊するまであまり時間が残されていないという事。それに本格的に育てるのであれば、そもそも人の寿命が短すぎた。
記憶力に関しては、英雄達の大部分を取り出した事である程度は記憶の喪失が収まりはしたのだが、それでも1度崩れ出したものはそう簡単には止まらない。
そういう訳で、本格的にヒヅキを育てるのは結構難しい。新しい記憶は長時間残るとはいえ、時間の方は如何ともしがたいだろうから。
ヒヅキもそこまでは望んでいないので、結局のところ、適せん指導していくしかない。戦闘に関しては持ち札だけでも相当に強力なので、そちらは問題ないだろう。使い方とか技術とかはあるだろうが。
程なくして、ヒヅキは魔法道具を全て調べ終える。大きいうえに多少複雑とはいえ、ヒヅキが預かっている長剣のような類いと比べると単純だと言えた。
仕掛けも全て無力化したので、再起動させるのは少し苦労するだろう。ヒヅキは魔法道具の無力化を終えたところで、防壁が破損していたのを思い出し、そちらについて調べていく。
細かなところまでは不明だが、防壁の魔法は結構広域に展開していたようだ。この魔法道具で最も魔力を消費していたのは、この部分だったようであるし。
(そういえばこの魔法道具は、周囲から魔力を取り込むだけではなく、別に駆動用の魔力源を用意していたようだな。そして、その魔力の供給先はこの裏側だったか……)
そう思い出し、ヒヅキはちらと視線をフォルトゥナの方に向けるが、それは後で訊けばいいだろうと、まずは防壁の調査を続行する。
防壁の破損の原因については、直ぐに分かった。
(強引に壊されているな。という事は、外から無理矢理防壁を破壊されたという事か。それも結構頑丈そうな防壁を、徹底的に破壊しているようだ)
組み込まれている防壁の情報量の多さに、どれだけ強固な防壁を構築していたのだろうかと少し興味が湧く。しかし直ぐにその考えを横に措き、それが完膚なきまでに破壊されているのをより詳しく調べていく。
(破壊されたのは最近で間違いないようだな)
破壊された魔力回路から分かる魔力の残滓から考えるに、それは間違いないだろう。では、何者がそんな頑丈そうな防壁を完膚なきまで破壊したかだが。
(犯人は限られているよな)
犯人が誰だかだとしても、それでいて全員一緒に旅をしている仲だ。全員がそれを可能としているので、これは考えるだけ無駄だろうと早々に諦める。
ただ、修復出来ないだろうかと考えるも、ヒヅキではそこまでは出来なかった。必要でもなかった事だし、それで問題はないのだが。




