旅路99
角を曲がると、そこは直ぐに行き止まりだった。人一人が余裕で隠れられるぐらいの広さは在るが、何処かに繋がっている感じはしない。何よりそこには腰丈程の台が在り、その上には花瓶が置かれていた。
淡い白色の花瓶には、青や黄といった色鮮やかな花が挿してあるが、どれも造花だろう。花びらもキラキラと輝いていて、花というよりも宝石のようだ。
花瓶の中には透明な何かが入っているが、水ではないだろう。慎重に花瓶に触れて少し傾けてみるが、中の透明な何かは動かない。
ヒヅキは花瓶と花を調べてみるが、魔法道具という訳ではなさそうだ。かといって、何かしらの罠という感じでもない。困ったヒヅキは、フォルトゥナの方へと視線を向ける。
『これは何か意味があるのかな?』
そう言って横に避けたヒヅキに代わり前に出たフォルトゥナは、花瓶と台と周囲へと視線を向けた。
しばらくそうして調べたフォルトゥナは、ヒヅキへと視線を向けると足下を指差す。
『この台の下に何かあるようです』
『台の下?』
ヒヅキは首を傾げながらも、フォルトゥナと一緒に花瓶と台をどける。そうして台の下から姿を現したのは、当然ながら床であった。
床が露わになると、フォルトゥナはしゃがみ込んで調べるように床に触れる。少しして、床の一部を軽く押し込むと、そのまま横に動かす事が出来るのを発見する。
動かした床の下には、同じような床があった。それを眺めたフォルトゥナは、その現れた床を強めに押す。
「………………」
フォルトゥナが押した部分が僅かに沈む。しかし、それだけで周囲に何かしらの変化は無い。しばらく床を押したまま動かなかったフォルトゥナは、横に動かしていた床を元に戻して立ち上がる。
『あれで何か起きたの?』
何が起きたのか分からないので、ヒヅキは恐る恐るといった感じでフォルトゥナに問い掛けた。
『別の場所で次の仕掛けが起動したようです』
『次の仕掛け? 別の場所って何処?』
ヒヅキの問いに、元に戻した床へと視線を向けながら、フォルトゥナは少し間を置いて答える。
『おそらくですが、少し前に居た場所ではないかと』
『少し前に居た場所?』
『謁見の間のような場所です』
『ああ、そうなの』
どうしてそこに辿り着いたのか分からないが、他に情報も無いので、ヒヅキはフォルトゥナに付いていくことにした。その前に台や花瓶を元の位置に戻してから、来た道を戻る事にする。
『そういえば、あの花瓶はそのままでいいのですか?』
『花瓶?』
思い出したようなフォルトゥナの言葉に、ヒヅキは振り返り曲がり角の方へと目を向ける。
『あれは何か特殊なものなの? 魔法道具ではなかったと思うけれど』
『はい、魔法道具ではありません。ですが、あれは意識を引き寄せる効果があるようです』
『意識を引き寄せる?』
『私も詳しくは知らないのですが、昔読んだ文献の中に、遺跡の中からそういった素材が見つかったという話があったので、おそらくそういった類の物ではないかと』
『ふうん?』
奇麗だとは思ったが、それ以上は意識を引き寄せられた感じがしなかったヒヅキは、疑わしそうに首を傾げた。
『長い間放置されていたからか、あれは効力がかなり弱っているようです。本来の力を取り戻すには1度組み直さなければならないでしょうが、その辺りは付いてきている他の者の中に出来る者が居るのではないかと』
『まぁ、それは……そうか』
女性や英雄達であれば、その存在を知っている者も居る事だろう。
ヒヅキの空間収納でも花瓶を入れるぐらいの空きはあるので、そこに収納していればそこまで荷物になる訳でもない。なので、とりあえず女性達と合流するまで持っていてもいいかと思ったヒヅキは、戻って花瓶を回収しておくのだった。




