開幕
ガーデン西方に位置するオオチル砦を守護するフーウン将軍は、その日も朝日と共に目を覚ました。
対スキアの最前線砦であるオオチル砦だが、ここ数日はスキアの姿を一切見なくなっていた。
スキアとの戦闘という話まで広げれば、もう少し遡り、ここ一月弱の間はほとんど無かった。
そのためにフーウン将軍は、スキアが自分が守るオオチル砦を迂回したか脇を通り抜けたのかとも考えたのだが、後方からはスキアがどこぞを襲っているなどとという報告は受けていなかった。それどころか、目撃情報自体が思い出したかのように数日に一件ほどが届くだけであった。
故に、フーウン将軍はおかしいと眉をひそめる。もしかしたら他の砦を集中して攻めているのかもしれないと、部下に命じて1週間前から確認させているほどだ。
願わくは、自国の領域外に出ていっていてくれ。そう切に願いながら、フーウン将軍は姿を見せないスキアの所在を探す。
そんなフーウン将軍が朝の報告を聞くために執務室に入ると、他の砦の状況に関する調査報告が上がってきていた。
「他も同じ、か」
やけに早いなと思いながら調査報告に目を通すと、どうやら他の砦も同じ状況のようで、フーウン将軍同様に他の指揮官も同じ懸念を抱いたようであった。だから、全ての砦に確認を取るまでもなく、王都の方から問い合わせがきたらしい。そちらの戦況はどうか、と。
一応部下の調査は継続されているようだが、王都からの問い合わせが答えだろう。フーウン将軍は少し考えてから、正直に現状を書いた王都宛の報告書を近くの部下に手渡した。
それにしても奇妙な話だ、とフーウン将軍を頭の片隅に疑問を抱きながらも、朝の報告を処理していく。その後は、部下にスキア捜索を兼ねた周辺警固をもう少し密にするようにと指示を出すと、執務仕事に取りかかった。
それはそんな事があった数日後の出来事。スキアの大群がオオチル砦に攻め寄せてきたのだ。
周辺警固を密にしていたためにいち早く襲撃を察知できたフーウン将軍は、直ちに近隣の砦へと援軍要請の使者を派遣したが、スキアの足があまりにも早かったために、それ以外に報告を活かしてその襲撃に備える事が出来ずに、迎撃態勢が整う前にスキアの襲撃は行われてしまった。
オオチル砦は最前線なだけに冒険者もそれなりに居たのだが、スキアの襲撃回数が他の最前線砦よりも少なかったために、配属されている人数が少なかった。
それでも各人が奮戦したおかげで、奇襲に近い襲撃を受けても暫くの間は耐え凌いでみせる。砦の規模と冒険者の数を鑑みれば、よく耐えたと称されて然るべきほどに。しかし、奇襲から3日後、フーウン将軍の救援要請に応えて先駆けとして訪れた近くの砦からの援軍の兵達が見たものは、無惨に破壊されたオオチル砦と、それを文字通り死守しようとした幾ばくかの喰われなかった勇者の残骸だけであった。
後の歴史書は後世の者にこう伝える。これを皮切りに、国境防衛以来のスキアの大規模攻勢が開始された、と。




