旅路97
とりあえず扉を開けてみれば分かるかと思い、ヒヅキは内鍵を外して扉を開く。扉の先は布の壁だった。
「?」
ヒヅキは状況を把握できずに一瞬動きを止めると、直ぐに周囲の様子を確認しようと視線を巡らす。
そうして分かったのは、目の前にある布の壁は謁見の間の壁に等間隔に設置されている垂れ幕のひとつだと判明する。高い天井近くから吊るされているにもかかわらず、床に着いている端の部分が折りたたまれているぐらいに長い。
布も厚手で丈夫そうで、長いだけでなく横幅もあるので、見るからに重そうでもある。
扉を開けるぐらいの隙間が壁との間に空いているので、扉を大きく開けても布に触れる事はない。それに横幅があるので、横からでないと布の裏側は見えない。
その垂れ幕には、国章か何かの絵が描かれている。全て同じ図柄なので統一感があった。
それはそれとしても、いくら見えにくいとはいえ見えない訳ではない。なので、扉の方はどうなっているのかと気になったヒヅキは振り返って視線を向けてみる。
開け放ったままの扉を少し閉め、扉を掴んだまま裏側の方に視線を向けてみると、そこには取っ手も何も付いていない壁の一部があった。
(このまま閉めたら、こちら側からは開けられなさそうだな。気をつけないと)
特に気になるモノが覗き部屋にある訳ではないが、戻って階段を上るのであれば、やはり閉める訳にはいかないだろう。
「………………」
それでも少し気になったので、ヒヅキはフォルトゥナにのぞき部屋に戻ってもらった後、扉を閉めてみる。
扉を閉めると周囲の壁と同化して、よほど近くで見なければ繫ぎ目が分からない。布の裏側なので薄暗いというのも手助けしているようだ。
これであれば扉の存在は気が付かないだろうと思うと同時に、もしかしたら他の垂れ幕の裏にも似たような部屋があるのではないかという考えが浮かぶ。
閉めた扉を開けられるかどうか調べてみるも、取っ掛かりになりそうな場所が何処にも無いので無理そうだと諦めて、遠話でフォルトゥナに扉を開けるように頼む。
それで直ぐに扉が開く。中から現れたフォルトゥナに礼を言った後、扉を叩いてみたりしてもう少し詳しく扉を調べたヒヅキだが、結局、扉自体は普通の扉でしかなかった。
その後、扉は開けたままにして、フォルトゥナと共に他に扉がないかと謁見の間を調べてみたが、玉座の在る壇の近くに少数の兵が詰めていたと思しき隠し部屋が在っただけで、他には何も無かった。
謁見の間にも玉座の向かい側に立派な扉はあるが、ヒヅキは戻って最初の階段を調べてみる事にした。謁見の間の方は、時間があれば調べてみてもいいかもしれない。
『他の人達はまだ散らばったまま?』
『はい。幾らか合流したようですが、まだ1ヵ所には集っていません』
『そっか。ならもう少し見て回っても問題なさそうだな』
『はい。大丈夫かと』
そんな確認をしながら廊下を戻り、ヒヅキ達は最初の場所まで戻ってきた。そのまま奥の階段を目指す。
通路や階段には何の仕掛けもなく、無事に階段に到着する。
階段はそこまで大きくはないが、しっかりとした造りなのが分かる。絨毯が敷かれているなどという事はなく質素な見た目なのだが、風格とでもいえばいいのか、見るからにとても高価そうな階段だった。
普通の人なら気圧されそうな存在感を発する階段だが、別に魔法道具とかではないし、魔法が掛かっている訳ではないようだ。
ヒヅキは興味深そうに階段を観察しながら上る。
階段は短かったので直ぐに上り終えてしまったが、観察しながらだったのでそれなりに時間が掛かった。
上階は細い廊下が左右に伸びているだけで、見たところ部屋は確認出来ない。
ヒヅキはそれを不思議に思うも、そんな家も在るのだろうと気持ちを切り替えてから、左右を見回した後に左側へと進んだ。




