旅路92
広い室内にずらりと並ぶ机と椅子。壁際には建付けなのか天井にまでピッタリとくっ付いた本棚が壁一面に並んでいる。
といっても、本棚には本の1冊も残ってはいないし、机の上も奇麗なもの。他に気になるものは無く、ここは一体何の部屋なのかと思ったが、次の場所を探して部屋を出る。
通路から入って直ぐの部屋には、もう2つ扉が在った。ヒヅキは向かい側に移動して扉を開くも、そこは何も無い広いだけの部屋。一応中に入って調べてみたが隠し部屋のようなものは無く、何かしら仕掛けが施されているという事もなかった。
最後にもう1つの扉を調べてみる。鍵が掛かっていたが、内鍵だったので簡単に開けられた。
扉の先はまた通路。次は何処に繋がっているのだろうかと考えながら、ヒヅキは通路を進む。
通路の終わりは扉であったが、鍵が掛かっていたのでヒヅキはさっさと破壊して次に進む。開き直れば壊せばいいだけなので、鍵など意味はない。
次の部屋は、扉が2つ在った。調べてみると、両方とも通路へと続いている。思った以上に長く続いているようだ。
片方の今までで1番長い通路を進んでみると、次は広い建物に出る。
そこは何処かの広間とでも言えばいいのか、足下には絨毯が敷かれ、煌びやかに飾り立てられた明かりを灯す魔法道具が壁に並んでいる。
周囲を見回してみると、奥の方に階段があり、別の方には部屋に続いているらしき扉も確認出来た。
ヒヅキは慎重に室内に入ると、まずはその広い部屋を調べていく。
階段は後回しにして、先に扉を調べる。特に罠などもなさそうなので中に入ると、そこは掃除用具入れであった。
掃除道具は持っていかずにそのままにしたようで、沢山置かれている。箒やはたきなどの見慣れた道具から、ヒヅキが初めて見る道具まで色々と置かれている。
その部屋は臭い訳ではないが、すえたような少し独特な臭いがしていた。
一通り調べたのでヒヅキは次を調べる為に外に出ようとしたのだが、一緒に部屋を調べていたフォルトゥナが掃除道具の山を見詰めたままなのに気づき、ヒヅキは声を掛けた。
『何かあったの?』
ヒヅキの声にフォルトゥナは顔を向けるも、直ぐに掃除道具の山の方に目を戻す。その視線は、掃除道具の山の下を見透かすような目であった。
『この中から僅かですが、少し気になる反応が』
『気になる反応?』
はて? と思い、ヒヅキも掃除道具の山へと意識を集中させてみる。しばらくそうやっていると、掃除道具の山の中央付近。その下辺りに何かの魔力を感じた。その位置はおそらく床よりも低い。
ヒヅキがフォルトゥナにその事を確認してみると、フォルトゥナが感じていたのも同じモノであった。
それが何か気になったヒヅキは、フォルトゥナと一緒に掃除道具をどかす事にした。だが、その前にフォルトゥナから待ったの声が掛かる。
『どうかしたのか?』
フォルトゥナの待ったの声に、ヒヅキは首を傾げた。
『この掃除道具は回収しますか?』
『え? いや、要らないからここに置いていくつもりだけど?』
『それでしたら、この山を消してもいいでしょうか?』
『消す?』
その言葉に、一瞬何の話だろうかと首を捻ったヒヅキだが、直ぐにフォルトゥナが何を言っているのか理解する。
『ああ、それじゃあお願いしようかな』
『御任せ下さい!』
そう言って頼むと、ヒヅキは巻き込まれないように後ろに下がる。
『では、いきます!』
それを確認したところで、フォルトゥナは掃除道具の山を対象に消滅魔法を発動させた。
ただそれだけで、掃除道具の山は一瞬で消え去る。まるではじめからそこには何も無かったような光景に、相変わらず見事なものだとヒヅキは感心した。
感心しながらも、ヒヅキは何かを感じた目当ての場所に視線を向ける。
しかし、見たところ何も無い。ただ床がそこに在るだけだ。それでも何かを微かに感じるので、本当に何も無いという事はないだろう。
そう思い、ヒヅキは慎重に足下を調べながら、何かを感じる場所に移動してみた。




