旅路88
入浴ついでに洗濯もしようと、荷物から服を取り出す。海を渡る前に湖らしき場所で洗濯したが、湯と水では違うだろうと思い、折角だからと着替え以外は全て洗うことにした。洗濯後の乾燥はフォルトゥナに任せれば直ぐに終わるので問題ない。
それを頼んだ後、ヒヅキはフォルトゥナと一緒に風呂に入る。元々ヒヅキに入浴の習慣はあまりなかったが、一時期ほぼ毎日風呂に入っていたので、入浴も手慣れたものだ。
その時に付いてくるフォルトゥナとも入っていたので、そちらももう慣れたものだった。
湯船に湯を張った後、身体を洗う。高級な宿だけあり、身体や髪を洗う洗剤もいい物のようなので、ヒヅキは丁寧に何度も全身を洗うと、身体中の汚れがかなり取れた。
全体的に白くなったような気がするほど汚れを落とすと、湯船に浸かる。
息を吐いて落ち着いたところで、フォルトゥナに女性達の現在地が分かるか訊いてみる。ヒヅキではどうも上手くいかなかった。
「あの者達は現在都市全体に散っているようですね。何をしているかまでは分かりませんが」
「そうなのか。ありがとう」
英雄達のほとんどがいつも休憩場所に居ただけなので、そこを移動しているのは気にはなるが、結構な時間が経っているので、もしかしたらそれが理由とも考えられた。といっても、散っているというのは引っ掛かったが。
とはいえ、そうであるならばまだ時間は在るのかもしれない。そう思うと、もう少しゆっくりしていてもいいかもしれないとヒヅキは考える。
(都市を見て回りたくもあるにはあるが、どうしたものか)
いつまで滞在しているのかは不明ではあるが、それでも何日も滞在している訳ではないだろう。都市の規模は不明だが、1日で見て回れるほど小さいとは思えない。
(であれば、もう開き直った方がいいか?)
急いだところでどうせ全てを見て回れないのであれば、このまま好きなように過ごした方がいいような気がして、ヒヅキはもう少しこのまま湯に浸かっておく事にした。
十分に湯に浸かって身体を温め後、ヒヅキは持ってきた洗濯物を洗っていく。直ぐに乾燥させることを考えて、折角だからと着替えも全部洗うことにした。
流石は高級宿と言うべきか、衣類用の洗剤も用意されていたので、ヒヅキはそれを惜しみなく使用して服を洗う。フォルトゥナもその隣で自分の服を洗濯する。
洗い終わった後、フォルトゥナに頼んで洗濯物の乾燥を任せる。その間、ヒヅキは身体を拭いた布を使って、フォルトゥナを参考に魔法で衣類などを極力痛めずに乾燥させる練習を行う。
全ての服の乾燥が終わった後、ヒヅキは着替えて洗濯した服を背嚢に仕舞っていく。衣服などを乾燥させる魔法の練習は結構上手くいったので、今度からは自分の服は自分で乾燥させる事が出来るだろう。
服を仕舞った後は、フォルトゥナと一緒に魔力水を飲んで一息つく。
そうして休憩も終え、片付けも済んだ後、ヒヅキは宿屋を出る事にした。その前に調理場を覗いて、何か保存食になりそうな物がないか物色していく。
フォルトゥナに隠し部屋のようなものがないか調べさせながら、ヒヅキは棚や貯蔵庫を確認する。
避難時に食料はほぼ根こそぎ持っていっていったようで、宿屋にはそれほど残っていなかったが、それでも少しは発見できた。
その中から食べても問題なさそうな物をより分けると、片手に載るぐらいしか残らなった。それでも補充出来たのでよかったとヒヅキが考えたところで、フォルトゥナが地下に食料保管庫を見つける。
見つけた食料保管庫はあまり広くはなかったが、それでも中には小袋いっぱいの乾した果物が入っていた。それを礼を言ってフォルトゥナから受け取ったヒヅキは、背嚢にそれを入れて宿屋を出たのだった。




