旅路87
女性の案内で近くに在った宿屋に行くと、扉をすり抜けて中へと入る。
そこで女性とは別れると、ヒヅキは付いてきたフォルトゥナと共に宿屋の中を少し探索してみる事にした。
入って直ぐには受付があり、奥は見た感じ調理場に繋がっているらしい。
右手側に食堂があり、左手側には2階への階段が在る。造りとしては普通の宿屋といったところか。当然ながら誰も居ない。
ヒヅキは軽く食堂を覗いてみた後、受付に置いてあった鍵から最上階っぽい番号の鍵を手にする。この辺りはそのままだったようだ。
2階に上がると廊下があり、奥に3階へと続く階段がある。ヒヅキ達は途中で横に伸びている廊下に沿って進むと、そこには左右に番号の書かれた扉がずらりと並んでいた。
手近な扉に手を掛けてみると、やはりというか当然というか鍵が掛かっている。
ヒヅキは改めて持ってきた鍵に付いている番号を確認した後、上階に進む。3階も造りは2階と同じだった。部屋数は少なかったが。
4階が最上階のようで、その階には扉が1部屋分しかない。ヒヅキは扉と鍵に書かれた番号を確認してから持ってきた鍵を扉に差し込むと、問題なく解錠出来た。
室内に入ると、かなり広い部屋であった。他にも扉があるので、別の部屋も在るのだろう。
机や椅子などの家具類も揃っており、もはや部屋というよりは家であった。別の部屋も寝所や厠、それどころか風呂場まで付いている。調べたところ、湯を沸かす魔法道具が設置されているようで、簡単に湯を沸かせる事が出来るようだ。
調べた後にフォルトゥナに確認してみたところ、どうやら湯量に比例して魔力は使うが、それ以外に制限のようなものは無いらしい。
つまり、魔力が続く限り湯を沸かし放題という事になる。とはいえ、ヒヅキでも設置されている三人ぐらいは入れそうな大きさの湯船一杯に3回湯を張れるかどうかというぐらいには魔力が必要なので多用は出来ないが。
寝所に置かれている寝台も非常に大きく、五人ぐらいは並んで寝られるだろう。それでいながら綿でも詰めているのか、ふかふかとしている。
フォルトゥナが風の魔法を使って、部屋中の埃を集めて窓の外に棄てたので、そのまま寝ても問題はないだろう。
かなり高そうだなと、ヒヅキはこの部屋の1泊の料金を考えようとして直ぐに止めた。考えても無駄であるし、ヒヅキはこの辺りの相場を知らない。そもそも流通している通貨すら知らないのだからしょうがない。
思いの外疲れが溜まっていたのか、ヒヅキは寝台に横になるとウトウトとしだしたので、フォルトゥナに寝る事を伝えると、そのまま就寝した。
かなり久しぶりのまともな寝台だったからか、ヒヅキはかなり熟睡していたようで、目が覚めた時には夜であった。寝た時が昼過ぎぐらいだったので、かなりの時間寝たらしい。
「………………」
誰も起こしに来なかったので、それでも問題はなかったのだろう。置いていかれたとは思わないが、その時はその時で問題はない。
ヒヅキが隣を見てみると、抱き着いた状態のフォルトゥナがそこにいた。
ずっと起きているというのも大変だろうとは思うので、それについてはいいのだが、寝てる訳ではなくジッとヒヅキの方を見ていたので少し驚いた。
フォルトゥナに睡眠は必要ないとはいえ、出来ない訳ではないと思うので、丁度起きたのだろうかと思う事にしつつ、ヒヅキは起床の挨拶をフォルトゥナと交わす。今は夜だが、挨拶はおはようで問題ない。
フォルトゥナが離れたところで、ヒヅキは上体を起こして身体の調子を確かめる。
(やはり睡眠というのは大切なのだな……いや、大切なのは寝る場所の方か)
地面やら岩やらの上で寝て疲れが取れる訳がない。まして座りながらなので、気休めにさえなっているのかどうか。
寝台から降りて軽く身体を解すと、ヒヅキは折角なので入浴することにした。いつまで休憩するのかは不明なので、あまり長くは浸かっていられないだろうが。




