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旅路86

 前の町の時同様に女性の力で簡単に扉を通る。分厚い扉もなんのそのなので、相変わらず凄い力だとヒヅキは思った。

 首都の街並みは奇麗であった。整然と並ぶ建物に、何処までも敷き詰められた石畳。道幅はかなり広く、遠くに城らしき建造物が確認出来る。

 建ち並ぶ建物も荒らされた形跡はなく、それどころか、視界に映る範囲の建物はどれも外観からして奇麗であった。古ぼけた家など無いかのように。

 ヒヅキは女性の後に続いて大通りだと思われる、門から真っ直ぐ伸びている大きな道を進む。

 大通りを歩きながら、ヒヅキは周囲に目を向ける。固く閉じられた建物ばかりの光景は、周囲が立派な分だけ余計に寂しさを掻き立てた。

 建物の上部に掲げられている看板に目を向けていくも、見た事の無い文字ばかりで、ヒヅキは最初それが何かの記号なのかと思ったほど。

 中には絵が描かれた看板もあるが、それよりも看板には文字が多い。つまりこの場所は識字率がかなり高かったのではないかとヒヅキは推察する。

(それならば、図書館とかないだろうか? まぁ、文字が読めないのだけれども)

 識字率が高いのであれば、本が充実しているのではないか。そう考えたヒヅキだが、残念ながら看板ですら読めないヒヅキでは、仮に図書館が在ったとしても難しいだろう。その前に住民は避難しているので、本もどれほど残っているのか。

(城がある訳だし、何かしら残っているとは思うのだが……残念だ)

 文字を学べば読めるようになるが、今はそんな時間は無い。文字を読むだけとはいえ、流石に数時間でそれを修得出来るとは思っていない。

 女性辺りであれば問題なく読めそうだが、だからと言って読んでもらうのは気が引けた。今更な気もするが、ヒヅキは女性に私的な頼み事をするのは出来るだけ避けたいと思っているから余計に。

 そこでふと、フォルトゥナは読めるのだろうかと思い、ヒヅキはフォルトゥナに問い掛けてみる。

『フォルトゥナは店の看板の文字は読める?』

 ヒヅキの問いに、フォルトゥナは近くの看板の方へと視線を向けると、少しして。

『……いえ、申し訳ありません。読めないようです』

『そっか。ありがとう』

 確認したフォルトゥナに礼を言った後、ならばしょうがないかとヒヅキは本を諦める。元々そこまで固執していた訳ではないので、無理ならその辺りはどうでもよかった。

 大通りを歩いていると、広場に出る。中央に大きな円形状の噴水があり、今でも水が湧き出ている。その奥に城が見えるが、まだ遠い。

 広場に到着したところで、女性が長めの休憩を告げる。

「ああ、そうだ。ヒヅキ、ちょっといいですか?」

「なんでしょうか?」

 何処かへ行こうとした女性は、思い出したようにヒヅキに声を掛けた。

「睡眠は取らなくても平気ですか? ここならば宿屋もありますが」

 宿屋と言っても人はいないが、女性の話では寝床はそのままという場所があるらしい。といっても、最初に積った埃を払わないといけないらしいが。

「この辺りでは高級な部類に入る宿屋ですので、寝具の質はいいと思いますけれど。今回は結構時間が掛かりそうなので、そちらで睡眠を取っては如何かと。扉は開けますので、壊す必要はありませんよ」

「………………」

 船旅の時に十分に睡眠を取ったが、あれからあまり満足に睡眠が取れていなかった。それに寝台の質や環境もあまりよくなかったので、女性の提案は魅力的ではあった。

 だが同時、急にどうしたのかと警戒も抱く。今まではヒヅキから申請しない限り気を使われる事はそうそう無かったというのに。

「他意は無いのですがね」

 そんなヒヅキの様子に察したようで、女性は困ったように肩を竦めてそう口にした。

「理由は分かりますが。それで、どうするか決まりましたか?」

「そうですね……」

 ヒヅキは悩んだ末に、女性の提案に乗って宿屋で眠る事に決めた。

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