旅路83
そこら中で捕食している同様の影があるので、それでここに侵入した賊は全滅したという事なのだろう。
「スキアと神殿について話した事がありましたでしょうか?」
「えっと……簡単にだとは思いますが、知っています」
女性の言葉にヒヅキは記憶を辿る。スキアと神殿については誰に聞いたかは曖昧ではあるが、それでも一応記憶に在った。おそらくあれはウィンディーネから聞いたのだろう。内容は確か、スキアは生き物の集合体で、神殿は世界崩壊時の避難場所というモノであったはず。そして、神殿はスキアを創る為の材料集めも兼ねていたとかなんとか。
そんなぼんやりとした記憶を思い出したヒヅキは、女性の言葉に曖昧に返した。とりあえず、どちらも神が関わっているという事は確かなので、今はそれさえ分かっていれば十分だと思いながら。
「それでしたらそちらの説明は省きますが、今回ここで賊を全滅させたのは、その神殿を担当しているスキアなのですよ」
「神殿を担当ですか?」
初めて聞いた話に、ヒヅキは困惑気味に眉根を寄せる。スキアは神の駒だが、あまりジッとしているという印象は無い。待ち伏せとか包囲とかしていたが、それでも短期だ。
そもそもスキアが居るような場所に避難はしないだろう。スキアの身体は大きいので、隠れるにも限度があるだろうし。
「ええ。と、そこまで長い話ではありませんが、この話はゆっくり出来るところでしましょうか。丁度広場が見えてきたところですし、そろそろ休憩にするとしましょう」
女性の言葉に頷くと、ヒヅキは過去視を切って一旦元の位置に戻る。
程なくして広場に到着する。円形に大きく開けたその場所は中央に高台があるだけで、他には何も無い。在っても高台の四方に立て札が在るぐらいか。現在は立て札には何も張り出されていない。
女性はそこで休憩を英雄達に告げると、ヒヅキを伴い少し離れた場所に移動する。
「彼らは知っているでしょうから、別に隠す事ではないのですが」
英雄達から少し離れたところで、女性は最初にそう切り出す。
「今回のような世界の終わりの際に神殿は避難場所として機能します。と言いましても、全ての神殿という訳ではありませんが。その辺りは神託やら口伝やらを用いて、神が長い年月をかけて誘導しているようですね。スキアの集団が襲来したら、どこそこの神殿に避難すれば神が護ってくれる。みたいな感じで」
思わずなのか、女性の口調が後半は小馬鹿にしたような呆れているようなものになっていた。真実を知っているとあまりにも馬鹿らしい話という事なのだろう。実際ヒヅキも、その話には呆れてしまった。とはいえ、何も知らなければ神の慈悲とか救済にでも思えるのかもしれない。
「そうして人々を神殿に集めるのですが、その神殿にはスキアが潜んでいるのです」
「スキアですか」
「ええ。見た目は人と何ら変わらないスキアが」
「………………」
「ああ、因みにですが、そのスキアの見た目は地域によって異なりますよ。その地に住んでいる主となる種族に擬態しているといったところでしょうか」
「なるほど」
ヒヅキは頷くも、それはやはり聞いたことのない話だった。
「それで、そのスキアは何をするのですか?」
「神殿に避難してきた者の回収でしょうか」
「回収ですか?」
「捕食でもいいですが、魂を集めるのが役目ですね。回収時期はそれぞれ異なりますが、大抵は世界が崩壊した後でしょうか。そして、そうして回収された魂で新たなスキアが構築されるという訳です」
「そういう仕組みだったのですか」
「ええ。なので、あれをスキアと呼んでいいのかは悩みどころですが」
「確かに特殊な役割ですね」
「ええ。でも、成り立ちは他のスキアと同じなのですよ」
「そうなのですか」
「ええ。ですから悩むのですよね」
女性は困ったとでも言うように小さく息を吐く。ただ、スキアかどうかなどどうだっていい話ではあるので、少々芝居がかった感じではあるが。
「では、神殿に避難するのは危ないという事ですか?」
「世界が崩壊するので一概には言えませんが、安らかに死にたいのであればお勧めしませんね。もっとも、通常のスキアに食べられても同じですが」
「そうなのですか?」
「ええ。先程言いましたが、成り立ちは同じなんですよ。なので、やろうと思えば同じ事も出来るという訳です」
「なるほど」
頷いたヒヅキは、もしかしてそれがスキアが生者を執拗に追う理由なのだろうかと思ったのだった。




