旅路78
「海の中に少しありましたね」
「海の中ですか?」
「ええ。皆が休憩していた場所の下に倉庫がありまして、その入り口が海の中に」
「そんな場所に入り口が!? 倉庫には入ったのですか?」
「入りましたよ。しかし、とても小さな倉庫だったので、あまり量はありませんでしたね。質は天然物としては悪くはなかったですが」
「そうでしたか」
場所にもよるが、魔石や蓄魔石は貴重品である。人工的に創れる場所はともかくとして、普通はそんなものなのだろう。人間界で言えば、魔石や蓄魔石は宝石よりも高価なのだから。
「船から回収できた分のおかげで量としては問題ないとは思いますが、それでも予備でもう少し欲しいところですね」
「なるほど。では、とりあえず石塔の中を確認してから判断してみようかと」
「それでいいかと」
女性が頷いたのを確認したところで、ヒヅキは石塔に向かうことにする。
部屋を出て2階に下りると、フォルトゥナだけではなく女性も一緒に下りてきた。地下に行く為に誤作動を起こしているという魔法道具を直す必要があるかもしれないので、その方が都合がいい。
そのまま1階に下りて、石塔へと繋がる扉の前に移動する。最初は魔法道具とは関係ない方の石塔から。
おそらく地下に持っていったからだろうが、家の中に鍵は無いと女性が言っていたので、ヒヅキは石塔への扉を遠慮なく破壊する。と言っても、やる事は普段通りに光の剣で鍵を破壊するだけだが。
扉を開くと、真っ暗な石塔内部が姿を現す。少しかび臭く淀んだ感じがするのは、閉め切られて長いこと空気が循環していなかったせいだろう。
ヒヅキは光球を現出させて石塔内部を照らし出す。石塔の内部も外観同様に石で出来ていた。
「………………」
照らし出された床や壁に視線を向けて、ヒヅキは何も無い事を確認する。念のためにフォルトゥナと女性にも確認したが、何かしら罠があるという事はなかった。
石塔内に入ると、少し進んだところで足を止めて周囲を見回す。
周囲に光球を動かして照らしてみたところ、石塔内部は直径5,6メートルほどの円筒らしい。天井は吹き抜けだが、高くて頂上が肉眼では確認出来ない。壁際には壁に沿って螺旋を描く階段が上まで伸びている。
だが、他には何も無い。大きな家から入った扉以外には、外へと出る扉があるぐらいで、部屋のひとつも見当たらなかった。
階段は何の為に設置されているのだろうかと疑問に思うも、それは上ってみれば分かるかもしれない。一応フォルトゥナと女性に階段にも罠がないかどうかだけ確認しておく。
二人共罠は確認出来なかったらしいので、ヒヅキは足下を気にしながら階段を上っていく事にした。
慎重に上っても、階段は直ぐに上り終える。塔の天井部分まで高かったものの、遺跡やら神殿やらに比べれば楽なもの。
結局、階段の途中途中に板が嵌め込まれて塞がった窓が設置されていたぐらいで、調べてみても他に何も無かった。天井付近も窓があったぐらい。わざわざ階段を上っても、景色ぐらいしか見るものが無いだろう。やはりこの石塔は見張り塔なのかもしれない。
階段を下りた後も床や壁を調べてみたが、何も無かった。外への扉を開いてみたが、英雄達が休んでいる正面に出るだけ。
何も無かったので、家に戻ってから反対側の石塔へと移動する。
そちらも同様に扉の鍵を破壊すると、慎重に扉を開く。罠に関しては事前に無い事は確かめていたので問題ない。
扉を開いてみると、反対側の石塔同様にこちらも真っ暗。
同じように光球を現出させて内部を照らし出してみるも、階段以外何も無いのも同じだった。違いといえば、外への扉が向こうの石塔とは反対側に取り付けられているぐらいか。
ここに地下が? とヒヅキは怪訝な面持ちで内部に入る。光球を動かして周囲を照らして調べてみたが、石塔の大きさも同じようだった。




